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§ それは、ホントに不可抗力で。

06

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 お互いの声が大きくなり、語気もすっかり荒くなっている。これ以上の言い合いも睨み合いも無駄だ。冷静に話をしなければ埒が明かない。それはわかる。わかるが、こんな状況じゃ、無理。

「と・に・か・く! 痛いから先にこの手を離してよっ! 話はそれからだってば」

 腰を抱いていたその腕を突然サッと離され、バランスを失ってよろめく体。とっさに踏ん張ろうと重心を移動した足を捻り、壁に縋りつくも抵抗虚しく尻餅をついた。

「いったぁ!」
「……悪い」

 頭にカーッと血が上って、私を助け起こそうとした尊の手を思わず振り払ったが、申しわけなさそうなその表情に、怒りは即座に罪悪感へと塗り替わる。

 なんか、悪いことしちゃったかも。

「ごめん……私……」

 きまりが悪く俯いた私を、尊が抱きかかえるように引っ張り上げる。立ち上がり、足を少し動かしてみたが、痛みはそれほどでもない。大丈夫。大したことはない。

「足は?」
「うん。平気」

 とりあえず座れと促され、肩を借りすぐ横のソファへ腰を下ろすと、尊が足元に跪いた。

「見せてみろ」
「え、いいよ。そんな……」

 拒否なんてはじめから聞く気もないのだろう、その手はすでに脹脛を掴んで靴とショートストッキングを脱がせ、踝を撫でたり動かしたり、怪我の様子を観察している。

「大丈夫そうだが……腫れてくるとまずいから、湿布くらいしといたほうがいいかもな」

 顔を上げ突然ニッコリ微笑まれて驚く。
 こいつ、普通に笑えるじゃないか。

「い、いいよ、そんな大げさにしなくって」
「あ、待てよ? 湿布、湿布、確かどこかにあったはず」

 やはり人の言葉を聞く気がこれっぽっちもない尊は、私の膝をポンと叩いて立ち上がると、どこだっけなあとブツブツ独り言ち、あちらこちらと物色しだした。
 その背中を眺めがなら、こいつってこんな奴だったかなと、朧げな記憶の中から、三年前の様子を掘り起こし、クスッと笑った。

「ねえ、もういいよー。大丈夫だからさ」
「おっ、あったあった! これ、使えるだろ?」

 デスクの背面、窓際に置かれた越高のキャビネットから取り出した小さな箱はきっと、湿布薬。こちらへ歩きながら眉間に皺を寄せ目を顰め、説明書きの小さな字を読もうとしているその様子がおかしい。

 すぐそばにメガネあるのに。

 再び足元に跪き、位置を確認して湿布薬を貼り、慎重にショートストッキングを履かせる丁寧な動作のひとつひとつに、熱くなる目頭をごまかすがごとく訊いた。

「ねえ、なんで湿布なんか置いてあるの?」
「あー、これ? これは、アレだ。一時期肩こりが酷くてさ。臭いって評判悪かったけど、これ、結構いい仕事するんだよ」

 さっきまでの怖い顔はどこへいったのやら。上目遣いで微笑むこいつは、私の知っている尊そのもの。容姿はまるで別人だが、こういう飾らないところは、変わっていない。

「ありがと」

 頰が熱をもっている。お尻もムズムズ、居心地が悪い。

「喉乾いたろう? 何か持って来させよう。コーヒー、紅茶、日本茶、冷たいの熱いの……」

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