上 下
54 / 65
わたしだって恋をする。

しおりを挟む
「まあそうなんだけどねぇ……っていうか、清香のことはどうとでもなるんだから、この際どうでもいいわ。それよりも大事なのはあんたでしょ!」
「へ? わたし?」
「当然でしょう? あんたが男と同棲してるなんて、一大事! 大事件じゃない!」
「大事件、って……」
 ——酷い言われようだ。そりゃあ確かにちんくしゃ眼鏡ブスの喪女——卒業済みですが、だからって……。

「生まれてこの方、幾人もの男の子に好意を向けられ告白されても毛の一本ほども興味を示さないで一切合切無視を決め込んできたあんたが、男と同棲してるのよ? これを大事件って言わないで何を大事件って言うってのよ?」

 身を乗り出してわたしの両肩をガタガタ揺すって捲し立てる姉の言葉の意味が、いまひとつ飲み込めない。

 男の子がわたしに好意を向けた?

 告白……されたことなんてあったっけ?

「あのね? わたし告白されたことなんて一度も……お姉ちゃん、なんか、勘違いしてるんじゃ……」
「勘違い? 冗談! 私があんたに振られた男の子を何人面倒看てきたと思ってるの? こいつだってそうよ? こいつの初恋の相手はあんただったんだから! まさか、知らなかったなんて言わせないわよ」
「そ、そんなことあるわけが……」

 ケンちゃんが姉の言葉を肯定するように頷いている。けれども。

 そんなバカなことがあるわけないじゃないか!

 これまで姉が交際した数多の男の子たちの殆どは、元から姉の取り巻きだった。彼らが姉に恋する気持ちは、わたしに伝わってきていた。姉だって相手の気持ちが恋愛感情なのをわたしから知らされて後に交際を始めたはず。その彼らの中に、わたしに気持ちを向けていた子がいたなんて——。

「いや、やっぱりありえないよ。だって……」
「ここに生き証人がいるのに?」

 ケンちゃんが嘘や冗談を言っているとは到底思えないけれど、だったら今までわたしが感じ、してきたことはいったいなんだったというのだ。

「優はさ、他人の恋愛感情がわかるんだったよな? 誰が誰を好きかはっきりとわかるんだよな?」
「そうだよ……頭の中に聞こえてくるの」

 このことは、古くから付き合いの深いケンちゃんも、もちろん知っている。

「そうだったな。俺も……優のその能力は子どもの頃から実際に何度も体験しているし、まったく疑ってない。ただ……」
「うん」
「もしかしたらだけど、それって全部が全部わかるわけじゃないってこと、あるんじゃないのかな?」
「どういうこと?」
「俺が思うには、だけど……優はさ、他人のことはわかっても、自分に向けられた恋愛感情はわからないんじゃないのかな? その証拠に優は、俺が優を好きなのわからなかったんだろ? じつは俺さ、優と付き合いたいってヤツから相談受けたこともあるんだよね。優は覚えてない? 俺の高二の時の同級生でいつもつるんでた浅川ってヤツ。何度か一緒に遊んだだろ?」

 ケンちゃんの同級生の浅川くんといえば……。

「ああ、覚えてる。なんか、やたらと人に絡んできてたノリの軽い人よね?」

 浅川くんとはケンちゃんと姉と四人で何度か遊びに出かけたことがあった。見た目はまあまあよかったんだけれど軽薄そうなところがあるし、会う度にわたしの頭を撫でたり無理やり腕を組んだりベタベタ触るしで、鬱陶しかった印象しか残っていない。

「軽いって言われたら否定できないけど、あいつ、本気で優に惚れてたんだぞ」
「うっそだぁ! ぜんぜんそんなじゃなかったよ?」

 二言目にはわたしが好きだの何だの言っていたような気はするけれど、そんなのは口先だけ。心からのものではなかったと断言できる。

「私もケンに賛成。ねえ優香、つまりはそういうことなんじゃないの? あんたはさ、自分じゃ男にまったく相手にされないって思ってるみたいだけど、そんなことまったくないんだからね」

 ダメ押しとばかりに、鼻先にビシッと指を指された。

「そう……なのかな」

 他人の他人へ向けられた恋愛感情はわかるけれど、自分に向けられたそれはわからない。

 本当にそうなのかな?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。 そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。 真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。 彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。 自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。 じれながらも二人の恋が動き出す──。

冷酷社長に甘く優しい糖分を。

氷萌
恋愛
センター街に位置する高層オフィスビル。 【リーベンビルズ】 そこは 一般庶民にはわからない 高級クラスの人々が生活する、まさに異世界。 リーベンビルズ経営:冷酷社長 【柴永 サクマ】‐Sakuma Shibanaga- 「やるなら文句・質問は受け付けない。  イヤなら今すぐ辞めろ」 × 社長アシスタント兼雑用 【木瀬 イトカ】-Itoka Kise- 「やります!黙ってやりますよ!  やりゃぁいいんでしょッ」 様々な出来事が起こる毎日に 飛び込んだ彼女に待ち受けるものは 夢か現実か…地獄なのか。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

鬼上司は間抜けな私がお好きです

碧井夢夏
恋愛
れいわ紡績に就職した新入社員、花森沙穂(はなもりさほ)は社内でも評判の鬼上司、東御八雲(とうみやくも)のサポートに配属させられる。 ドジな花森は何度も東御の前で失敗ばかり。ところが、人造人間と噂されていた東御が初めて楽しそうにしたのは花森がやらかした時で・・。 孤高の人、東御八雲はなんと間抜けフェチだった?! その上、育ちが特殊らしい雰囲気で・・。 ハイスペック超人と口だけの間抜け女子による上司と部下のラブコメ。 久しぶりにコメディ×溺愛を書きたくなりましたので、ゆるーく連載します。 会話劇ベースに、コミカル、ときどき、たっぷりと甘く深い愛のお話。 「めちゃコミック恋愛漫画原作賞」優秀作品に選んでいただきました。 ※大人ラブです。R15相当。 表紙画像はMidjourneyで生成しました。

処理中です...