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わたしだって恋をする。
参
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呼ばれて飛び出て——以下略、と、軽い調子で半開きのドアをノックし入室した佐伯が専務のデスクにつかつかと歩み寄った。
間髪入れず、専務がこれだよこれ、と、不愉快そうに写真を指差す。
「げ、なにこれ……」
「相沢宛に送られてきた」
呆れかえった様子で繁々と写真を眺めている彼の口からは、いつものようなイヤラシイ冗談すらでてこない。
「結衣か。あいつ、なに企んでやがるんだ?」
「さあな」
写真を見、経緯を聞いた佐伯もわたしたち同様、仕事上の企みではないだろうとの見解を漏らした。
その上で、若いギャルならまだわかるけれど、三十五歳バツイチの井川結衣にいまさら色を仕掛けられるなんていくらなんでもないだろう、要もなめられたものだと、言いたい放題。我が意を得たりと専務を弄る佐伯の言葉に、わたしはひとつ疑問が湧いた。
「あの……お話し中申し訳ありませんが、ちょっとよろしいですか?」
「ん? なに?」
「先ほどからおふたりとも井川さんを『結衣』とお呼びになっていますが、個人的なお知り合いですか?」
仕事の付き合いであるならば、呼ぶのは普通名字だろう。
「え、っと……」
咄嗟に目を逸らした専務を斜めに見て、佐伯がニヤリと悪い顔で笑う。
「ああ、相沢は知らないんだっけ? 結衣はねぇ、こいつの元カノ。なんと、初恋の相手なんだよねー」
「おいっ!」
わたしの睨みに呻きながら額を抑える専務を尻目に、佐伯はとっても楽しそうだ。
「ついでに言っちゃうとさぁ、初体験の相手でもあるわけ。スゲーだろ、こいつの初体験はなんと、十六だよ十六! 結衣はたしか三つ上だったっけ? お姉さんが手ほどきしてあげるわっ、てな感じでさー」
「祐司っ! てめぇ好い加減に……!」
「……はつたいけん、とは、やはりあちらの方の初体験……」
「あっ、相沢っ! 違うんだ。そうじゃなくて、いや、そうだけど、これにはいろいろ訳が……」
あなたの筆下ろしのお相手が誰で、どんなわけがあろうと、この際どうでもいいといえばいいのですが——。
「そんなことよりも、こちらの写真のほうが問題ではありませんか?」
「そんなこと……そんな程度のことなの……」
専務はゴンッと派手な音を立てて机に額を打ち付けた。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「……ん。なんか俺、傷ついた……」
ちょっとからかいが過ぎたかも知れないが、専務のことだ。本気で悄気ているとは思えないのだけれど。
でもまあ、わたしが初めてだって言ったじゃないか、と、ちょっとモヤモヤした胸がすいたのも正直なところで。
「あの……」
「ちょっと、あなたたち、なにしてるのかしら?」
「ねえ、表に誰もいないんだけど?」
その声に驚き振り返ると、いつからそこに居たのだろう、美魔女がふたり開け放ったドアから顔を覗かせ、妖艶な笑みを湛えていた。
間髪入れず、専務がこれだよこれ、と、不愉快そうに写真を指差す。
「げ、なにこれ……」
「相沢宛に送られてきた」
呆れかえった様子で繁々と写真を眺めている彼の口からは、いつものようなイヤラシイ冗談すらでてこない。
「結衣か。あいつ、なに企んでやがるんだ?」
「さあな」
写真を見、経緯を聞いた佐伯もわたしたち同様、仕事上の企みではないだろうとの見解を漏らした。
その上で、若いギャルならまだわかるけれど、三十五歳バツイチの井川結衣にいまさら色を仕掛けられるなんていくらなんでもないだろう、要もなめられたものだと、言いたい放題。我が意を得たりと専務を弄る佐伯の言葉に、わたしはひとつ疑問が湧いた。
「あの……お話し中申し訳ありませんが、ちょっとよろしいですか?」
「ん? なに?」
「先ほどからおふたりとも井川さんを『結衣』とお呼びになっていますが、個人的なお知り合いですか?」
仕事の付き合いであるならば、呼ぶのは普通名字だろう。
「え、っと……」
咄嗟に目を逸らした専務を斜めに見て、佐伯がニヤリと悪い顔で笑う。
「ああ、相沢は知らないんだっけ? 結衣はねぇ、こいつの元カノ。なんと、初恋の相手なんだよねー」
「おいっ!」
わたしの睨みに呻きながら額を抑える専務を尻目に、佐伯はとっても楽しそうだ。
「ついでに言っちゃうとさぁ、初体験の相手でもあるわけ。スゲーだろ、こいつの初体験はなんと、十六だよ十六! 結衣はたしか三つ上だったっけ? お姉さんが手ほどきしてあげるわっ、てな感じでさー」
「祐司っ! てめぇ好い加減に……!」
「……はつたいけん、とは、やはりあちらの方の初体験……」
「あっ、相沢っ! 違うんだ。そうじゃなくて、いや、そうだけど、これにはいろいろ訳が……」
あなたの筆下ろしのお相手が誰で、どんなわけがあろうと、この際どうでもいいといえばいいのですが——。
「そんなことよりも、こちらの写真のほうが問題ではありませんか?」
「そんなこと……そんな程度のことなの……」
専務はゴンッと派手な音を立てて机に額を打ち付けた。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「……ん。なんか俺、傷ついた……」
ちょっとからかいが過ぎたかも知れないが、専務のことだ。本気で悄気ているとは思えないのだけれど。
でもまあ、わたしが初めてだって言ったじゃないか、と、ちょっとモヤモヤした胸がすいたのも正直なところで。
「あの……」
「ちょっと、あなたたち、なにしてるのかしら?」
「ねえ、表に誰もいないんだけど?」
その声に驚き振り返ると、いつからそこに居たのだろう、美魔女がふたり開け放ったドアから顔を覗かせ、妖艶な笑みを湛えていた。
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