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わたしにはわたしの考えがある。
拾壱
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妹の清香は、そわそわと落ち着きのない様子で、広いリビングを見回している。
わたしは無言のまま、ローテーブルに湯気の立ったブラックコーヒーを三客——もちろんカップは百均製、を置き、ゆったりと足を組む美丈夫の隣へ座った。
清香がちらちらとする目配せを放置して食後のコーヒーを堪能する。
「紹介してくれないの?」
「ああ、ごめんなさい。紹介がまだでしたね。この子はわたしの……」
「妹の清香でぇす」
薄気味悪く嬌態を作る清香に鳥肌が立つ。
「西園寺です。よろしく」
専務の罪作りな微笑みに早々射貫かれた清香が、蕩けるような笑みを浮かべた。
だから会わせるのは嫌だったのだ。この時点ですでに、面倒くさい予感しかしないのだが。
「ねえ清香、突然訪ねてくるなんて……来るなら来るで前もって連絡してくれればいいのに」
「あら、連絡なら何遍もしたわよ? 電話もしたし、こっちの予定だってメールしたでしょ。でも電話には出ないし、メールの返信もないし……気がつかなかったの? 優香って相変わらずぼーっとしてるのね?」
履歴にはなにも残っていませんけど。わたしのせいですか、この大嘘つきめ。
「それで? なにかあったの?」
「なにかじゃないわよ。電話もメールも一方通行だし、家にはちっとも帰ってこないし、みんな心配してるからあたしが代表して様子を見に来たんじゃないの。来たら来たでアパートにはいないし、いつの間にか引っ越してるし、あんたいったいなにやってるのよ」
呼びつけられればその都度、都合を付けて帰郷しているし、そうじゃなくても年に一度は帰っている。さらにいえば、毎月お小遣い程度だが母には仕送りだってしている。
もちろん、ごくたまにある実家からの電話やメールにもきちんと返事をしているのだから、言われる筋合いはない。
「……そうだったんだ? それは心配されても仕方がないね」
こっちにもいたよ、大嘘つきが。
年給もらって帰郷しているのを知っているくせに、話を合わせちゃって。腹黒ヘタレはいったい何を企んでいるのやら。
「でしょう? みんな家族だから心配してるのに、まったくこの人ったら、ほんと、酷いと思いません?」
「それで? わざわざ田舎から出てきた用事はそれだけ?」
「それだけ……じゃないけど。様子を見るついでにいろいろね。話は変わるけど、あんた、いまどこに住んでるの? 積もる話もあるし、泊めてもらおうと思ってたのに」
「いや、だから、ここ……」
「家はここですよ。ここで、僕と一緒に暮らしてます」
「え? そんな、うそ……」
「嘘じゃありません。彼女は僕の婚約者ですから。もちろん、近いうちに正式にご挨拶に伺うつもりでいますし」
喰らえ。鳩に豆鉄砲。
頭の中で、大量の疑問符が爆発しているだろう清香は、驚きすぎて声も出せず、ただただパックリと口を開いたまま。
わたしだって、未だ信じられないし、というか、信じてもいないのだから。ましてや、清香の思うわたしがこんなゴージャスな男と婚約して豪華マンションで暮らしているなんて信じられるわけがない。
「な、なんでこんなのが……嘘だぁ、変な冗談は止めてくださいよ」
「嘘でも冗談でもありませんよ。そうそう、食事はまだなんでしょう? 相沢、なにか出してあげたら?」
「えーそんなぁ、申し訳ないですよ」
「……残り物しかないけど」
——遠慮なんてしてないくせに。
「じゃあ、僕はちょっと外すから。清香ちゃん、ゆっくりしていってね」
「あ、はい。ありがとうございます」
嘘くさい笑みを浮かべて立ち上がり、寝室へ向かう専務の背を追いかけて扉を閉めた。
「なに?」
「なに? じゃないですよ。絶対になにか企んでますよね……って、ちょっとまっ……」
早速腰に巻き付けられる腕をぴしゃりと叩く。
「俺がなにを企むっていうの? 婚約者なんだから、あんたの妹に愛想するのはべつに悪いことじゃないだろ? せっかくふたりでゆっくりしてたのに邪魔されたのはちょっと癪に障るけどな」
腰に回った両腕をお構いなしに引き付けられ、わたしの身体が定位置に収まった。ぎゅうぎゅうと抱き締められ、首筋を舐め噛みつかれる。
「あぅ、ちょっ、専務っ。だめですってば!」
「騒ぐと聞こえちゃうよ」
「うぅ」
強引に重ねられた唇から侵入してきた舌にかき混ぜられ翻弄されたわたしはもう窒息寸前。やっと唇が離れ、腕の拘束が解けたのと同時に腰が砕け、ベッドにへたり込んだ。
「シャワー浴びてくるよ」
悔しい。ひとり余韻を引きずるわたしが、ばっかみたい!
わたしは無言のまま、ローテーブルに湯気の立ったブラックコーヒーを三客——もちろんカップは百均製、を置き、ゆったりと足を組む美丈夫の隣へ座った。
清香がちらちらとする目配せを放置して食後のコーヒーを堪能する。
「紹介してくれないの?」
「ああ、ごめんなさい。紹介がまだでしたね。この子はわたしの……」
「妹の清香でぇす」
薄気味悪く嬌態を作る清香に鳥肌が立つ。
「西園寺です。よろしく」
専務の罪作りな微笑みに早々射貫かれた清香が、蕩けるような笑みを浮かべた。
だから会わせるのは嫌だったのだ。この時点ですでに、面倒くさい予感しかしないのだが。
「ねえ清香、突然訪ねてくるなんて……来るなら来るで前もって連絡してくれればいいのに」
「あら、連絡なら何遍もしたわよ? 電話もしたし、こっちの予定だってメールしたでしょ。でも電話には出ないし、メールの返信もないし……気がつかなかったの? 優香って相変わらずぼーっとしてるのね?」
履歴にはなにも残っていませんけど。わたしのせいですか、この大嘘つきめ。
「それで? なにかあったの?」
「なにかじゃないわよ。電話もメールも一方通行だし、家にはちっとも帰ってこないし、みんな心配してるからあたしが代表して様子を見に来たんじゃないの。来たら来たでアパートにはいないし、いつの間にか引っ越してるし、あんたいったいなにやってるのよ」
呼びつけられればその都度、都合を付けて帰郷しているし、そうじゃなくても年に一度は帰っている。さらにいえば、毎月お小遣い程度だが母には仕送りだってしている。
もちろん、ごくたまにある実家からの電話やメールにもきちんと返事をしているのだから、言われる筋合いはない。
「……そうだったんだ? それは心配されても仕方がないね」
こっちにもいたよ、大嘘つきが。
年給もらって帰郷しているのを知っているくせに、話を合わせちゃって。腹黒ヘタレはいったい何を企んでいるのやら。
「でしょう? みんな家族だから心配してるのに、まったくこの人ったら、ほんと、酷いと思いません?」
「それで? わざわざ田舎から出てきた用事はそれだけ?」
「それだけ……じゃないけど。様子を見るついでにいろいろね。話は変わるけど、あんた、いまどこに住んでるの? 積もる話もあるし、泊めてもらおうと思ってたのに」
「いや、だから、ここ……」
「家はここですよ。ここで、僕と一緒に暮らしてます」
「え? そんな、うそ……」
「嘘じゃありません。彼女は僕の婚約者ですから。もちろん、近いうちに正式にご挨拶に伺うつもりでいますし」
喰らえ。鳩に豆鉄砲。
頭の中で、大量の疑問符が爆発しているだろう清香は、驚きすぎて声も出せず、ただただパックリと口を開いたまま。
わたしだって、未だ信じられないし、というか、信じてもいないのだから。ましてや、清香の思うわたしがこんなゴージャスな男と婚約して豪華マンションで暮らしているなんて信じられるわけがない。
「な、なんでこんなのが……嘘だぁ、変な冗談は止めてくださいよ」
「嘘でも冗談でもありませんよ。そうそう、食事はまだなんでしょう? 相沢、なにか出してあげたら?」
「えーそんなぁ、申し訳ないですよ」
「……残り物しかないけど」
——遠慮なんてしてないくせに。
「じゃあ、僕はちょっと外すから。清香ちゃん、ゆっくりしていってね」
「あ、はい。ありがとうございます」
嘘くさい笑みを浮かべて立ち上がり、寝室へ向かう専務の背を追いかけて扉を閉めた。
「なに?」
「なに? じゃないですよ。絶対になにか企んでますよね……って、ちょっとまっ……」
早速腰に巻き付けられる腕をぴしゃりと叩く。
「俺がなにを企むっていうの? 婚約者なんだから、あんたの妹に愛想するのはべつに悪いことじゃないだろ? せっかくふたりでゆっくりしてたのに邪魔されたのはちょっと癪に障るけどな」
腰に回った両腕をお構いなしに引き付けられ、わたしの身体が定位置に収まった。ぎゅうぎゅうと抱き締められ、首筋を舐め噛みつかれる。
「あぅ、ちょっ、専務っ。だめですってば!」
「騒ぐと聞こえちゃうよ」
「うぅ」
強引に重ねられた唇から侵入してきた舌にかき混ぜられ翻弄されたわたしはもう窒息寸前。やっと唇が離れ、腕の拘束が解けたのと同時に腰が砕け、ベッドにへたり込んだ。
「シャワー浴びてくるよ」
悔しい。ひとり余韻を引きずるわたしが、ばっかみたい!
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