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花の移ろい
新しい家族
しおりを挟む私の世界が変わったのは、小学校二年生の秋ごろ。
私が生まれてすぐ、母は私を一人で育てる決断をして父と離婚。シングルマザーとして必死に私を育ててくれた。
母は父と結婚する前から、家からなん駅も離れた駅にあるキャバクラの一人として活躍していた。
家にある目立つドレスや、数多いメイク道具も母は隠そうとしていたけれど、私にとってはお姫様のようで憧れで仕方なかった記憶がある。
小学校二年の秋ごろ、母が自分の店から近いホストクラブのナンバーワンであった『彪雅』という源氏名の男性と再婚した。
本名は冴草 彩斗。
父親が夜の世界の人間であることなど、すぐに出回り噂が広がれば母も実は普段地味な格好をしているが夜の仕事をしていると後ろ指を指されることも正直多かった。
小学生までであれば、少ない知識で悪意から目をそらすことも簡単だったが、中学に入り、知識を付けた同級生達が言う言葉はどれも私には否定しきれないことも多く、辛くて父と母を憎んだことも少なくなかった。
彩斗は、とても綺麗な顔立ちで黒く艶やかな髪を持ちカラコンを外せば琥珀色の瞳を見ることができ、百八十を越える身長に、筋肉質の体型でありながら細くしなやかな線が見える。
ホストという職業柄、相手の長所を見つけることにとても秀でており、同級生のなかには初恋が彩斗であるというものも少なくなかった。
同級生の親からも頻繁にそういった話を貰うことが多かったのだろう、私が寝た後、母とそういった話をしているのは聞いたことがあった。
父も母も、再婚後は互いに夜の世界を抜けて真面目に働き始めたが、言われもない事を言われ続けてきた私にとっては、どうであれ過去は消えないのに。と内心モヤモヤしていた。
中学三年の夏休み。
高校受験も近付いて、ピリピリが止まらなかった私は家族である母と父に大層当たり散らかして、もしも高校受験に失敗したらそれは私のせいではなく夜職なんてしていた母と父のせいだ。と吐き捨て家出したことがある。
家出といっても行き場など限られていて、家から一時間ほど歩いた所にあるフードコートのある商業施設。
そこのフードコートはコート内のお店でドリンクバーチケットを買えば、ある程度は時間が潰せるようになる。
ドリンクを飲みながら頭を冷やせば自分の失言に気がついて自己嫌悪する。
もう家族と呼んで貰えないかもしれない。母からしたら離婚した父に似たかもしれない私を捨てるかもしれない。
頭でグルグル考えながら、家に戻るきっかけがないと悩ませている時、父が、彩斗がホストの威厳なんてどこにもない汗だくで息を切らしながら走って商業施設を回っているのに気がついた。
キョロキョロと辺りを見回して私を視界に捉えた瞬間のあの表情は、叶うことが絶対に無い恋を生むには十分すぎるものだった。
「よ、よかった。見つけたぁ………無事で本当によかったぁ」
仕事の時にみるワックスやらで整った髪はボサボサで、汗でいくつかの束が出来上がり、普段の汗をかかない涼しげな表情はどこにもない。
へたぁっと弱々しくも、向かいの席に座り肩で息をしながら、良かった安心したと言葉を漏らす彩斗は、父親だった。
「なんで来たの。私お父さんに酷いこと言った、お母さんにも……迎えに来て貰う資格無い」
「う~ん、だって詩乃が言ったこと事実だもん。俺も母さんも元は夜の世界で働いて、それが一般的な世界では悪いことのように表現されること、そう見られてしまうことは仕方ないことだもん。
けど、詩乃からしたら本当に苦しい問題になってしまったことだけは申し訳なく思ってる。
だから、見事受験合格してさ。俺と母さんをギャフンと言わせてよ。ね、詩乃」
うん、と頷いた私を見て彩斗は帰ろうか。と声をかけた後に母に見つかったからゆっくり話をしながら帰る。と一言連絡を入れて、一緒に帰路を辿ることにした。
した、はずだった。
私と彩斗の関係が変わったのも奇しくも同日であった。
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