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執着の香水
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しおりを挟む図書館で働く為には、原則的に司書資格というものが必要となる。この資格を取得する方法は二つあり、一つ目は大学で司書課程を履修し所定の単位を修めてから卒業すること。もう一つは司書講習を受講し、単位を取得すること。正規で採用されるには必須で必要になるのだが、パートやアルバイトという形で資格がなくとも採用される、または募集をかける所も少なからずある。
「……美濃谷さんの経歴を拝見しました。大学で既に司書資格取得に必要な課程は終えてるみたいで……これなら此方としても正規になる見込みがあって有難いです」
小さな図書館ではあるものの国家資格が必要とされている職に『経験未経験不問』と記載があるからとノコノコと来て良い場所ではなかったと酷く反省した。
面接官の蛯名は、美濃谷の履歴書を見ながら的確な質疑応答をする。美濃谷も想定外の質問でも慌てること無く応対が出来たのは数年とはいえちゃんと社会生活を送っていたからだろう。
「一つ。訊きたいことがあるのですが大手企業さんに就職なされて三年ですか、働かれて先月お辞めになられてますよね。理由はなんだったのでしょうか」
当然といえば当然の質問。
四年通った大学在学中に辞めた会社に就職を決めた。卒業したら即入社して一戦力として尽力してきた。
最初こそ夢は大きくやりたいことも多かったからがむしゃらに夢に向かっていた。
いつからその重荷に耐えられなくなっていたのか。
上司の件は辞める一端に過ぎなかった。寧ろお陰で辞める事が出来たと喜んだ程であった。
何を言ってもこの場では言い訳にしか聞こえなくなってしまうだろう。
「………一身上の都合になります」
なんとも浅はかで自分都合の言葉。けれどそれしか言えないほどにあの時のことは美濃谷にとって汚点でしかなかった。
蛯名は美濃谷にも聞こえないほどの小さい声で「やっぱダメかぁ」と呟いてから、「そうでしたか」と優しい声色で言葉を締めた。
「…では、面接の結果は後日お電話か郵送にしますが希望はありますか?」
「…あ、出来れば郵送でお願い出来ますと幸いです」
「わかりました、一週間以内に合否に関わらず御連絡をさせて頂きます。お待たせしますが宜しくお願い致します」
最後に事務的な会話をし、美濃谷は図書館を後にした。
蛯名はその後ろ姿をずっと見詰めながら、小さなため息を吐くと図書館の方へと戻っていった。
誰もいない時間帯の図書館で、受付カウンターの椅子に腰掛けながら蛯名は溜め込んだ言葉を愛しげに呟いて空に浮かばせる。
図書館で、出逢った、運命の人。
「………良い匂いがした、彼女の匂いだった。やっぱり本が好きなのはあの頃と変わらない、仕事を辞めた理由はあの男だって分かってるのに俺はまだ信用に値しないってことだよなぁ、もう少し警戒を解ければ……」
そういえば、と蛯名は顔をしかめる。美濃谷が仕事を辞める一ヶ月前、あの男のことで悩んでいた時たった一日だけ把握できていない日がある。
あの日のことをどうにかして知りたい。ただ知るには壁が厚すぎる。
「……どうしたら知れるかなぁ、とりあえず採用通知作らないとなぁ…」
カタカタとパソコンを打つ音だけが図書館に響く。
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