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花の移ろい
もう一つの執着の香水
しおりを挟む銃口から放たれる弾丸は硝煙の香りを漂わせ、周囲を恐怖の底へと引き摺り込む。
熱を持つ其れを握る人間はひどく扱い方が慣れているようで何の躊躇いも無く次のモーションへと移っていく。
思えば事の発端は本当に些細なことで。
四月に幼い頃から夢見ていた喫茶店などのプロデュースや、小規模ながらイベントで提供される飲食物の企画考案を行う部署のある会社に入社した。
高校生の時に一目惚れした喫茶店の様なお店を自分の手で考案し建てることが理想だった。
職場は女性が多い部署だったが、優しい人が多く日常が新しい発見の嵐だった。
新人とはいえど自らの提案を無下にされることが無く、誰もが対等に働ける場所だった。
そんな中、小さな催し物の企画で発言した提案が採用され、新人には重い大役を任されたのだ。
そして先日催し物は見事成功を納め今日のまさに今、成功を称える打ち上げに参加していた、はずだった。
打ち上げにはお世話になった営業部の方やイベントの管理をしていた部署のそうそうたる顔ぶれが揃っていた。
営業部に所属されている富岡さんという方はあまり良い噂の無い暗い部分があると聞いていて、新人は要注意しておいてと警告されていた。
けれど仕事でお逢いし会話をしている分には至って雰囲気の良い方で、てっきり噂は噂に過ぎないのだと警告を忘れてしまっていた。
故に気付いた時には、打ち上げ場所の居酒屋さんの壁際に追いやられ動けなくなっていた。
周りの人達はお酒の影響もあってか異変に気付いてくれる人はおらず、更には恐怖で動けず声も出なくなった私を助けてくれる人は居なかった。
太股に置かれた富岡さんの掌がスカートの布を捲り上げストッキングの上へと場所を変える。
撫でられるように触る手付きは徐々に厭らしくなっていくのがわかるというのに、恐怖で固まった腕を上げ意志を表示することも誰かに目線を送って助けを求めるという行動にも移せずにいた。
「抵抗しないということは君も俺に好意があったんだね、じゃあ一緒にここから近いホテルに行こうか」
富岡さんの言葉がまるで反響するかのように頭で復唱され、脳が危険を伝える警鐘を鳴らす。
絶対について行ってはいけないとわかっているのに、タイミング悪くそろそろお開きにしようか、二次会に移ろうか、なんて話が始まってしまった。
全てが富岡さん優勢で話が進んでしまっている。
まずいとは頭で理解していても動けなくなっている身体は、握られた手を振りほどくことも出来なかった。
そんな状態でお店をぞろぞろと会社の人達に紛れ出れば、待ち構えているように立ち並ぶ異質な黒服の集団。
集まる人の隙間からしか見えなかったけれど、黒服の人達はアジア系の容姿の人も混じってはいたがその大半がヨーロッパ系の人のようだった。
ふと、黒服の集団で一際目立つスラッとしたモデルの様な白髪の若い男の人と目があった気がした。
「Don't touch my dear kitten.」
モデルのような人は富岡さんと私の前に立ったかと思ったら、見下す様に英語のような言葉を放つ。
剣幕からして緊急性の高いことだとはわかったけれど、私を含むその場にいる周りの人は理解しきれなかった。
中には英語が多少出来る人もいたけれど、酔っているということとどこか訛っている話し方のせいか正確に英語で何と言っていると判断できる人は居なかった。
そんな私達を見てあからさまに不機嫌になったかと思ったその瞬間、懐からこの国では有り得ない其れを手にし富岡さんの腹部を射撃したのだ。
突然の発砲音に加え、この国では起こり得ない状況に周りの人はパニックを起こし富岡さんは痛みで意識を失っている。
…私はこの風景を一度見ている。
フラッシュバックで脳内に甦るその情景はそれまでの恐怖もありキャパを大きく越えて意識を手放すには十分だった。
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