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メリーバッドエンド
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しおりを挟む大好きな闇がやって来た。イレギュラーな光は闇を強くし濃くした。天下の侯爵家が当主の座を降り交代した。
難しい話であったろうに、命を奪わずよく降ろしたものだ。嗚呼、どうしてこうもこの世界は楽しいのだろう。
乙女向け恋愛シミュレーションゲーム『アレドメンギル』の中で息をする祟り神と化した異能力を持ち得る者達で一番初めに能力を開花した者。
ルヴィク・オルマンディード
作中で最も残酷であり、ハッピーエンドもバッドエン ドとすら呼ばれる彼はまさしく祟りそのものとして語られた。
百八十四センチの細身で筋肉とは無縁。
黒い髪に紫が束でちらほらと見える、腰まで伸びた髪型。彼には両目以外にも時折現れる瞳があり、顔と呼ばれる範囲内であればどこでも不意に開くことがあった。
「……ルヴィク、夕飯が出来たから今日は一緒に食べれるかしら」
「……………母さん、ごめん。今日は出れそうにないや」
母親の少し悲しく寂しげな声にも罪悪感など生まれない。
異能力があることを知った時の母親の顔はルヴィクにとって絶望そのものであった。ただでさえ他人と違うことを極端に嫌い、みんながしているからと多くを強要してきた母にとってあまりにも衝撃的で異端で受け入れがたいことであった。
父親は事業に生かせないか、異能力を持つものは繁栄すると聞く、と子爵である家を栄えさせるこの上ない機会だとルヴィクを利用しようと画策した。
母親の強い反対にも負けることなく、ルヴィクの異能力を見た父親はあまりにもな世界に母親の反対した気持ちを理解した。
ルヴィクはヘマトフィリア、血液愛好とエメトフィリア、嘔吐愛好を持つ異常性癖の持ち主であり、その両方を満たすために己の異能を存分に生かしていたから。
父親が初めてルヴィクの部屋に入った時、あまりの蜘蛛の巣の多さに背筋を嫌な汗が伝っていくのがわかった。
数日の間で行方不明となった使用人ならびに街中のホームレス達がルヴィクの友人となっていた。
人とは呼べなくなった友人らの呻き声にルヴィクは「今日はなにして遊ぼうか」と楽しげに声かける姿に繁栄も何もかもがこの犠牲の上に成り立つのかと理解できれば、事業に生かすことは出来ないのだと悟る。
「……入学させる学院は寮のある所にしよう、ルヴィクのことを把握できる学院がきっとあるはずだから」
受験を控えた頃になると両親はとても騒がしく動くようになった。単純な話ではある。家にいて、ルヴィクが無差別に選んだ友人になれそうな人が消えていくのを黙認できる数にも限りがある。
祟り神となった息子を、と必死になっている親を見てルヴィクとしてはもうこの家要らないなとしか考えていなかった。
そんな中で見てしまった新聞に大々的に書かれた『ギーディル家の当主交代』の文字。不意に興味をそそられるように文を読んでいけば途端につり上がる口角。
「……凄いや、仲間がいる。彼は闇の中で踊ってくれるかな」
新聞を読んだ次の日の朝、ルヴィクは両親に初めて「行きたい学院がある、祟り神が集まる楽しい学院になると思うんだ」とおねだりをした。
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