幻夢の園に

安馬川 隠

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メリーバッドエンド

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 ゲームの攻略対象は、それぞれ異能力と祟り神となり人災へと変わった。
 レギアに力を貸した溯行の異能力を持つ者は、消の祟り神となった。
公式が出した異能力と祟り神とは何かしらの繋がりがあり、レギアは言葉に関する異能力であるから死を伝える言葉に着目した祟り神となり、溯行の異能力を持つから消滅や消耗などの時間に関わる祟り神となったのではとファンの間で様々な見解を生んだ。

 結果論としては公式が答えを出すことは無かったが、ファンの中で生まれた見解はある程度的を得ていたように感じられる。



 ギーディル侯爵家当主が代わった。
このニュースは貴族達からすれば大きな衝撃を与えた。
学院に入学する前であるからして、齢十五、六の子どもに爵位を譲り隠居したとなれば、まず多くが思うのは「気でも触れたか」という悪い意見。

 更に当主交代の直後に行ったレギアの大掃除でギーディル家との繋がりを取り消された者達の怒りは相当なものであった。
センテ家も繋がりを取り消されたが、テティカとレギアの仲を知っている父親が「娘を担保としてまた契約を」と図々しくも願い出た事でレギアは父親を消すことを決めた。



 テティカはその一連の流れを何も知らず、豪華なレギアの匂いでいっぱいの部屋でレギアの帰りを今かと待っていた。
レギアの部屋は淡い色の家具が多く、多くが寒色であったが女の子からしても居やすい部屋で少しだけ見た目とのギャップにテティカはふふっと笑みを見せた。
 テティカの『願い』は翌日の昼、やっと叶った。

 勝手に寝ていいものかと思いながらレギアのベッドで少しの時間とはいえ寝てしまい、お風呂に入ることも忘れていた。
だが、部屋から出るなと言われたわけではないにせよ勝手に動いてレギアに迷惑をかけるのも気が引けた為、静かにベッドに横になり目を閉じた。

 センテ家では寝る間も惜しんで働けと、ベッドは用意されておらず薄いタオルをひいた場所が寝る場所だった。
柔らかく反発性のあるベッドは身体を包み込むように、身体が痛くなくテティカを素早く夢の中へと送った。


「テティカ、どうして仕事をしていないの」


 鮮明に強く残っている言葉にハッとなって起き上がるも、眠ってからそんなに時間は経っていない。
脂汗が背中を伝う。仕事をせずに寝てしまうなんていうことが出来たのは何年も昔のことで罪悪感に蝕まれるような…ただ寝ていてはいけない気がしてならなかった。


 どれほどの時間が経ったのかテティカにはわからなかった。日が昇っているということだけ。


「………あれ、テティカ。寝ていないのか」


 ガチャリと重厚感のある音がしたかと思えば入ってきたレギアはテティカが寝ていないことに驚いている様子を見せた。
人間が囚われるとどうなるか、を深く知っているレギアでも日頃の疲れには勝てまいと甘く見積もっていたことを実感した。

 テティカは、何もせずに綺麗なベッドに寝るのはと畏縮した面持ちで眠気と戦っているようであった。
レギアは扉から外に向かい、休むから入ってこないようにと隣に居る誰かに話しかけた。なにかあれば起きてから対処するといって扉を閉め、テティカが立ち上がり避けていたベッドに横たわった。


「おいでよテティカ。俺も疲れちゃったんだ、一緒に少し仮眠を取ろう」


 レギアが腕を伸ばせばテティカは拒絶しない。
静かにレギアの腕にすっぽりとハマるように腕枕の体勢になれば、あまりの腕に乗っかる首の軽さにレギアは驚く。



 レギアの中で知っている過去が未来として流れ始めるのだ。
これからの流れで、本来このゲームにおいて攻略対象であるレギア以外の者達もこれから絶望を味わい祟り神となっていく。
『祟り神になることを止める』なんて偽善行為をしに行くのではない。この後に害となる存在を抹消するために協力するという名目ならば……多少は手を貸せるはず。

 眠るテティカの表情が、悪夢に魘されて歪む度にレギアは優しく髪を撫でる。そうすると少しだけ柔らかく落ち着く。


「……テティカの為に。二度も失えない」
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