幻夢の園に

安馬川 隠

文字の大きさ
上 下
18 / 23
メリーバッドエンド

2

しおりを挟む

 レギアが目覚めた日より約一年後。テティカは呪いの病で亡くなってしまう。
 これから起きる全ての事象がわかるレギアがすることは『テティカが生きているレギアにとって幸せな世界』を作ること。


 空を眺めながら、レギアは今後の動きを頭の中で流して考える。その間もレギアの隣でテティカが穏やかな時間を過ごしている。

 シロツメクサを結んで花冠を作っては、ぼぉっとした表情で何かを考えているレギアの頭の上に乗せ、襟足の長い髪に巻き付け編み込む。
レギアが動き出す頃には白銀の髪に柔らかなシロツメクサの匂いを漂わせるお姫様のような髪型になっていた。


「……ねぇテティカ。俺こんなに綺麗にされるの恥ずかしいんだけど…」

「ふふッ、レギア兄さまの綺麗な白銀の御髪が更に美しくなったんですから誇るべきですよ」


 テティカの腰まで伸びた空色の髪、ビー玉のようにコロコロとした瞳、淡い桃色の唇。
レギアの記憶に残るテティカが石ではなく、ちゃんと生きて動いて笑っている。

 それがどれ程嬉しいことか。

 さぁ、そろそろ家に帰らなければ。と重い腰を上げたテティカをレギアは昔、止められなかった。
動こうとするテティカの腕を掴み、待って。と止めればテティカは少し困ったような顔をしてレギアに腕をほどくように頼む。


 テティカの家は使用人の家系。
レギアの一族であるギーディル家に従事する家系でありテティカはレギアの一つに年下になる。

 センテ一族は貴族になれなかった。ギーディル家の一言もありいつでも貴族位をという言葉を先代が断ったのだ。
 だが悲しいことにテティカの父親は浪費癖が激しかった。ギーディル家の奉仕だけでは賄えない程の借金をいつの間にか背負っていた。

 テティカには姉と兄がいたが、末っ子であったテティカに雑用を押し付けてまるで貴族のように振る舞い生活することをギーディル家の当主達は黙認し続けてきた。

 テティカにかけられた呪いはまさにその一つ。センテ一族の悪意を受け続けたこと。
亡くなる数ヶ月前からテティカの綺麗な空色の髪はどんよりとした曇天色に変わっていた。


「テティカ、俺に従ってくれるか。俺だけを信じて」


 レギアはテティカの手を掴み、ギーディル家に戻る。
多くの使用人が頭を下げる姿はテティカの知らないレギアの一面。
レギアの部屋にテティカを案内し、使用人にテティカを『大切な客人』だと告げ対応を誤れば後がないことを示唆した。

 少しだけ待ってて。と部屋にテティカを囲いレギアは現当主であるレギアの父の元へ向かった。
丁度、ギーディル家とその傘下の長達との会合中で執事を含む使用人はレギアの参加を止めようとしたが既に祟り神となったレギアの見せた力には逆らえなかった。

 バンッと扉を開き驚きを隠せない当主達は「失礼ではないのか」と声を荒らげたが、レギアの「五月蝿い」という言葉に言葉を詰まらせ押し黙る。


「……お前がその様な無礼を働くなんて珍しいこともあるものだな」


 レギアの父は少し面白そうに言葉を出したが、表情には一切の笑みは含まれずレギアの目には怒りに染まった赤く熱い言葉が映っていた。
しかしながらレギアの知るこれからのギーディル家の動きも何もかもを知っているからこそ強い態度を崩すつもりはなかった。


「俺が言えることは一つです父上、今すぐに当主の椅子を降り隠居を。俺がこの家を立て直す。貴方にはそれが出来ない」


 強い悪意の包まれる空間で、レギアは先程執事達に見せた力を父親達にも見せた。
祟り神の力はゲームでも表現されたことはない。文字化、映像化出来ないと公式から出された情報のみ。

 祟り神の力は異能力とはまた違う力で、異名として存在する。レギアは『死の祟り神』なのだ。


 その日、ギーディル家の当主が代わり多くの粛清がなされたことを翌日の新聞は報じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

変態王子&モブ令嬢 番外編

咲桜りおな
恋愛
「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」と 「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」の 番外編集です。  本編で描ききれなかったお話を不定期に更新しています。 「小説家になろう」でも公開しています。

トリスタン

下菊みこと
恋愛
やべぇお話、ガチの閲覧注意。登場人物やべぇの揃ってます。なんでも許してくださる方だけどうぞ…。 彼は妻に別れを告げる決意をする。愛する人のお腹に、新しい命が宿っているから。一方妻は覚悟を決める。愛する我が子を取り戻す覚悟を。 小説家になろう様でも投稿しています。

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...