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鹿の肉
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しおりを挟む耳元に揃えられた、マッシュームカットと呼ばれる髪型は黒髪の中に白髪が混じっているのすら、だらしなく感じなく、大人の色気に感じる。
黒を基調とした着物、灰色に近い黒色の羽織。
180センチを優に越える、少し筋肉質な体格が更に和服の魅力を上げている。
春守 義人。
小説家でありながら、七人の息子を持つ全てにおいて秀でた人。
二十歳で結婚し、その後すぐに長男が生まれている。
そして今年長男は二十七歳になるということは、彼は若くても四十七歳ということになる。
とても四十七には見えない見た目に紅葉は正直な気持ち、戸惑いが隠せなかった。
、、
もっと古風な人かと思った。
こんな色気漂う人があの古めかしい言葉遣いの官能小説を書いているのかと思うと、どこか疼く気がする。
「…すまないね、使用人たちに悪意は無いんだ。
ただ、息子が探している人の名前も紅葉と言ってね。少しばかり焦ったようだ」
義人は凛々しい眉を少し下げ困り顔で紅葉たちに謝った。
その顔ですら彫刻のように美しく、瞬間言葉を失った。
「………、あ、いえ。大丈夫です。
でも私の名前、確かに紅葉と書きますが読み方はくれはなんです。
小学生の時、あだ名がもみじだったので今もその名残で…誤解を生んでしまった此方にも非があります」
咄嗟に紡いだ言葉に、義人は驚いたような表情を見せた。何故か謝罪に対し謝罪が返ってくるなんて、という驚きではなく、小学生の時のあだ名の時にその表情は大きくなったのだ。
そして、その表情は瞬時に元に戻り、そうだったのかそれは失礼した、お嬢さん方も楽しんでいってくれ。と優しい表情をして踵を返した。
紅葉たちから少し離れ、二人の視線から外れた時義人は使用人を呼び止め、先程までの優しい雰囲気から一点、誰もの心を凍らせるような冷たい表情で告げた。
「瑞人に伝えろ、鹿の肉が自ら戻ってきたと」
この言葉を聞いた使用人達が慌ただしく動き始める。
その表情は明るさの混じった恐怖の顔であることなどその場に来ていたお客人は誰一人として知ることはない。
「……父さんがこんな所にいるなんて、まだ会食は始まっていないでしょう?、もうボケたんですか?」
冷酷そのものであった義人の背後から、淡々と親への嫌味も込めた言葉を投げ掛けたのは義人によく似た顔の息子。
義人は息子を霧人と呼び、怪訝そうな顔でこの場にいるべきでないのはお前の方ではないかと言う。
その言葉には棘が多く、霧人も気付いてはいた。
しかし、その棘すらも掴むように霧人は、にやけた顔を見せて告げたのだった。
「ふっ、…鹿の肉は確かに良い匂いがしました。
瑞人が狂ったのもわかる、父さんもでしょう?
……俺もあの子が欲しくなったので、無理矢理にでも春守に入れようと思ってます。
彼女は俺達の番なのかも知れないですね」
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