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花の移ろい
悪女は現に漂う
しおりを挟む『ロルフローレンスの華麗なる半生』
この作品には、非現実世界がたくさん詰まっている。
例えばファンタジーの世界のように魔法が当たり前のように存在し使えるということ、魔獣や魔族、ドラゴンやマンドラゴラ、そういった生き物が当たり前に存在しているということ。
それら全てに慣れ親しむまでにとても長い時間を有し、確固たる立場を築くのに苦労を惜しまなかった。
自分が転生者で、ここが自分の新しい世界なのだと受け入れてからは。
ライナール・ベア・キヴィングルス。
この世界における私の名前。
そして、『ロルフローレンスの華麗なる半生』の作中ではロルフローレンスの在籍する学院内での悪女。
つまりは悪役令嬢的立ち位置にいるキャラクターであった。
キヴィングルス家という上流階級に居た為に何事においても苦労を知らぬ、我儘で傲慢で腐りきった性根。
両親に似て金銭感覚が崩れていて、派手なものであれば何でも好いて採用する。
良いのは顔だけというまさしく王道の悪女。
そんな彼女に生まれ変わった私は、将来的に訪れるキヴィングルス家の没落に並んで行われた断罪を避けるために全てを変えるように努力した。
使用人にも敬語を使い、服は単色のみできらびやかな物は選ばない。
髪も綺麗な白銀と黒のハーフだというのに、色が二色であることがコンプレックスだったというだけで金髪に染めていた原作を壊し、そのままの二色の地毛で過ごした。
そして何より金銭的にあれやこれやと買い与える両親からの贈り物を時間をかけて売り払い自身の将来貯金として貯めた。
たった一つ、この世界でも他人に生殺与奪を握らせない。ただそれだけの為に。
運命の大まかな流れは変えることが出来ず、イベントは原作通りにやってきた。
ライナールの父親、カザフの無類の女好きによる離婚そして再婚。
リドクルドという異母兄弟が出来る。
リドクルドはライナールの一個下であり、間違いなくカザフの息子。
浮気性が幅を広げすぎて、カザフは物語が終わるまでに何十人という子供をたくさんの女性との間に作り、女はその子供を使って貴族になろうと必死だった。
そんな策略の女が生んだのがリドクルドで、彼も相当歪んでいた。
原作ではライナールはリドクルドを嫌い、執拗に虐めては遊んでいたと書かれているが、私は彼をとりあえずはキヴィングルスから離れても生きていけるように自立させれるように努力した。
そんな中で、ライナールの学院入学があり、ロルフローレンスの半生の舞台へと登っていった。
そして、物語のありとあらゆるフラグをへし折り、逃げて逃げて逃げて、逃げきった先で私は彼と出逢った。
カーヴィン・キルシュー。
悪魔族であり、作中後半にて魔族の王の椅子に座る存在。
原作では主人公であるロルフローレンスに恋をし、人間界に多彩なる被害をもたらすが、学院時代では決してない。
出てくるなんて、全くもって知らなかったのだ。
彼とは最初相容れないと、互いに距離を取りつつ警戒しあった。
が、流れ行く時の中で時間をかけて愛を育む関係へと変わった。
私は大きく原作を変えたのだ。
そして、その罪悪感も拭えぬままに学院を卒業後、ライナールとカーヴィンは小さな廃れた協会で愛を誓った。
「汝、ライナール・ベア・キヴィングルスはカーヴィン・キルシューを夫とし永久の愛を誓いますか?」
「ええ、勿論です」
「汝、カーヴィン・キルシューはライナール・ベア・キヴィングルスを妻とし永久の愛を誓いますか?」
「あぁ、誓おう」
悪魔のカーヴィンが神に誓うなんて不思議ね、なんて話をしていた。この時が永遠に続くと夢を見ながら。
「何度生まれ変わろうと俺はラナを愛するよ。
何処に居たって探して、見つけて抱き締めて愛を伝えるから」
カーヴィンが愛の言葉を伝え、ライナールに用意していた指輪を渡した瞬間、突然眩い光に包まれて足が突然宙に浮くような感覚に落ちて行く。
「ラナ!!!」
どうしてだろう、カーヴィンの声が酷く焦っているように聞こえるのは。
足から消えていく感覚に意識も遠退いていく。
最後にみた景色は真っ白になっていく中で必死に手を伸ばすカーヴィンの姿だった。
…
ピッ………ピッ………、
無機質な音が聞こえてくる。
身体が鉛のように重たくて声も出せない。
カーヴィンは無事だろうか、あの光が神聖な力だったら傷付いてしまう。
薄く開いた瞳の先は真っ白な天井だったが、現れる人は誰も私が懐かしく感じる人ばかり。
あぁ、神様は意地悪だ。
「やっと目覚めたのね!」
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