幻夢の園に

安馬川 隠

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花の移ろい

夢オチなのが悔しい

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 絶対に逃げられない。まるで呪いのように、絶対に彼は迎えに来る。
黒い車が二台、中から彼が出てきて逃げようと走れば直ぐに彼の腕の中に閉じ込められる。

「楽しかった?迎えに来たよ。御飯食べて帰ろっか」

 自分より二十から三十センチ大きい身長で包まれては逃げる術は奪われる。
諦めて込めた力を抜けば愛しそうに抱き抱えられて車に乗せられ二人の家に帰る。



 緑豊かな爽やかな風すら吹く夏の昼間。
彼にしたいと、させてくれないのなら嫌いだと騒いで騒いで。やっとのことで許可されたアルバイト先の友人と遊びに出掛ける。
 自転車を漕ぎながらこの日常が普通なのだと強く感じることが、心地よくさえある。

 緑豊かな裏路地にあるような空き地に到着すれば、彼女の友だち達が笑顔で迎え入れてくれる。

 けれど、何故だかその笑顔が怖くて、彼とは違う。と頭の中に支配されていくような、恐怖心で足が動かなくすらなる。
「ご、ごめんッ」と言い、自転車に股がりその場から逃げ出す。


 周りの音など聞こえなくなっていて、必死に自転車を漕いで向かう先も自分ですらわからなかった。


 何時間、どう過ごしたのかもわからない。
ただ、空は紅に染まりこれから日が沈むことだけ。
疲れて、お腹も空いて、休みたい。

 ふと横目で道を見た時に彼の車が見えた。
『迎えに来てくれた』という恐怖と、やっと来たと喜ぶ気持ちが入り交じり変な汗が流れ落ちる。


 自転車を急いで切り替えて逃げるように車が入れない路地を駆けていく。


 車から眺めていた彼は楽しそうに笑っていて、
「……いいよ、もっとお逃げ。逃げれないから」


 辿り着いたのは、昔働いていたドラッグストアがある四階建てのショッピングビル。
四階にはレストランが数店舗あり、三階の端に小さいながらもまんが喫茶がある。
何としても逃げなければ、その思いでエレベーターに乗り、閉のボタンを何度も押す。
 閉まる直前に開く扉、「ごめんなさい」と若い夫婦や数人が乗り込む。怖くて目線を上げれなど出来なくて。

 エレベーターに乗って、三階を押していたはずなのにボタンは押せてなくて。
目線を上げた時には、レストランに入るために待つ椅子も用意された待合室のような空間にいた。

「御飯、なに食べよっか?」

 ひょこっと横から声をかけられ、驚きと終わった、という絶望で腰が抜ける。「危なッ」と抱き止められて待ち合いの中に空いた一つの椅子に彼が座り膝に乗せられる。

 もう逃げられないんだ、諦めが強くなると次第に眠くなる。

「オレンジ食べたいのぉーッ!!!」と泣き叫ぶ小さい子や、「ではそれを用意しますね」とプロの対応をする案内するスタッフを横目に自分は眠くて保てない頭の位置を彼の肩に乗せる。

 彼は愛しさを我慢できないのか、肩に乗り目の前に額しか見えないからと額にキスを落とす。


「……案内が遅れて申し訳ございません、今すぐに案内できるのがきっずランドのみでして……因みにですが、個室はあります」


 そうスタッフに言われ、お腹が空いて限界の自分は彼に「いいよ、」と言えば流れるように案内される。
個室でありながら、座るのは一つのソファー、止まらないキスと口移しで食べる御飯も慣れたものだ。
オムライスに某キャラクターがいたのが嬉しかった。



 食事も終わり、帰りの車に乗せられる手前、彼女達が帰路に着くところだった。
「あッ……」と声をかけると彼女達は怪訝そうに此方を見る。
ごめんも言わせて貰えないまま、彼女達は夕日に消えていく。

 悲しさにすがるように彼の肩に額を押し付け涙を流しながら「お前のせいだ」と呟けば、とても楽しそうに愛しげに「そっか、俺のせいか。ごめんね、でもね逃がしてあげられないの」と申し訳なさそうに言う。


「いくらでも逃げて良いよ、見つけ出してあげる。逃げる資金も携帯も欲しいものは何だって買ってあげるし、いくらでも俺を都合の良いモノのように扱って良いよ。
その代わり必ず、絶対に帰ってきて。鎖も繋がないから、ね?」


 背骨を抜かれるような甘くて、甘ったる過ぎる言葉を聞きながら、彼は自分の首の付け根、鎖骨の少し上の辺りに噛みついた。




 ………という夢を今見て、飛び起きて文字に起こしたけれども。
とても理想的なヤンデレで、とてもよかった。構想を練れば一作品作れる。夢オチに落ち込むほどのイケメンでした。
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