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拷の鎖
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しおりを挟む世間は狭い。
一度世間を騒がせてしまえば、央木高校のオメガを守る設備や体制の杜撰さや被害に遭ったオメガならびにアルファの名前や顔が大きく曝されることになることなど、安易に想像がつく未来ではあった。
『アルファに噛まれたアルファ』なんて話題性、メディアやネットで名を売りたい迷惑な人間は集らずには居られない。
久方ぶりの学校への登校時溢れんばかりの「カナドメくんだよね」「アルファに噛まれるってどんな気持ち」とカメラを向けられながら問われ続けた。
瞬間でも視線や声を出し向ければ、それだけでネタにされ後生の恥となると本能的に感じてしまった瑛大はただ真っ直ぐに揺らぐことなく学校の門をくぐることだけに集中した。
「………瑛大もやられたか、復帰早々おつかれさん。いちごミルク奢ったろか」
事件より病院での治療と被害者側であるという点から休養を余儀なくされていた瑛大は二ヶ月の休みの末、学校へと復帰した。
八月朔日は瑛大との二ヶ月の接触禁止令が出たこと、加害者であることを踏まえ一ヶ月半の停学。
両者が復帰後は定められた接触禁止令が解かれている状態下というのを学校は上手く作った。
久々の学校、靴箱で上履きに履き替えているタイミングで声をかけてきたのは濱本。
濱本自身も辛く苦しんでいたことを知っていたからこそ八月朔日も、瑛大も濱本に向けては敵意を向けなかった。
「……お前も大変だったろ、俺も奢ってやるよ。いちごミルクでいいか?」
本来流れるはずだった高校生活でこうなるはずだったという姿を、今やろうものならば許されないのだろう。笑うことも、勉学に挑むことも、もし濱本や関係しているアルファがしようとして、オメガの親が「うちの子は出来ないのに」なんて言おうものならば。
多くの未来が奪われる。
濱本は瑛大の休んでいたタイミングで生徒達に通達された教師陣からの決定事項を伝えた。
『本件において責任があるのは教師陣のみであり、生徒が責任感を負う必要は無い』
頭では理解できるけどさ、それって相手が追い詰めて命を絶つ前でならそっかって飲み込めるよな。と濱本は苦しそうに笑って見せた。
瑛大が復帰の直前まで悩んでいた八月朔日との対面をどうするか、という悩みも大きく括ればまだ互いに生きているから良い話なのかも知れないとさえ感じる。
「……濱本のお陰で、吹っ切れたわ。クラス入ったらさ、八月朔日殴るから止めんなよ」
あはは、止めとけよ~なんて笑い声と冗談じみた会話を弾ませながら、αの教室へと向かい入れば嫌でも視界に入る項に噛み付いてきた今一番憎たらしいやつ。
駆け寄るように一直線に走り、目の前に捕捉すれば拳に力を込めて目一杯腕を横に振り切った。
ゴンッと鈍い音が響き渡り、八月朔日は机にぶつかり倒れる。
クラスの全員がどうにも声をあげられない中で、制止しようとした者を止めたのは八月朔日本人だった。
「……お前にさえ噛まれなければ、俺は今頃他人事で済んでいた。メディアやらに追われて母さんが気に病むことはなかった………教えろ、八月朔日。お前なんで俺を噛んだ」
瑛大の言葉を八月朔日は決して遮らなかった。全て受け止めるように覚悟をしていたように、ジンジンと鈍い痛みの頬を、血の味のする口の中を、ぶつけて明日にでも痣だらけになるのが今から想像できる身体のあちこちを。決して気にする素振りを見せずに瑛大に向き合う。
「………瑛ちゃんのこと……噛んだ理由……そんなの俺が瑛ちゃんのこと好きだったから、以外になにがあるって言うの」
復帰早々にして、起きた喧嘩騒ぎは瑛大の一ヶ月の停学処分で表に出ることはなかった。
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