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番の拷
未来の話
しおりを挟むあんなにも悩んでいた日々が嘘のように毎日が充実し出したのは、要は心の問題だったと気付いた。
季秋、統、鳴は順調に年を重ね、今年二十五の歳になる。
季秋は国家機関、θ機関に就職した。βと番になる未来の誰かの為に自分たちを研究対象として。
ただ、他人に鳴を調べられるという屈辱は耐えられなかった。故に自ら進んでこの世界へと足を進めた。
統は体育教師になった。理由は単純で高校三年の時に鳴に「統は体育の先生とか似合いそう」と言われたこと。
様々なアスリート界から声が掛かっても、番の言葉より守るものはないと断言した。
鳴は言わずもがな専業主夫になった。就職しようと本を開くだけで二人は怒りその本を強めに閉じる。
「なんで自分の番を他の奴らのいる所に晒さなきゃならねぇの」
そう言って、働くのは俺達の務めと言い切った。
三人の営みは、今となっては古典的な方法で。
自然にそういった準備が出来るΩとは違い何もならない。
すると決めたら、洗浄から始まり潤滑剤は必需品。
それでも三人は本当に心の底から愛し合った。
甘噛みの力も二人は理解し始めて項を出血ない程度に噛んでは支配欲も満たす。
統の働く学校では、αであり凄く溢れだすフェロモンを駄々漏れさせているのに、左手薬指に指輪をし定期的に何故か項を噛まれた痕を嬉々と隠さずに見せてくる廣立先生はもしかしたらα同士の禁断の恋を……なんて噂が立っていることも統自身は知らない。
雪村、濱本も変わらずθ機関で季秋と共に働いている。
一緒に働けるなんて夢みたいだよと喜んで迎い入れた雪村。
まさか本当に来るなんて、紹介したのは自分だがと複雑そうな濱本。
そんな二人に挟まれながら、楽しくも真面目な職場。
統としても、鳴と更に深く繋がれる方法を模索する良い機会ではあったから充実した生活。
そんな中、奇跡的に休みが重なり三人で旅行に行くことにしたのは鳴からのちょっとした我が儘だった。
「二人は良いよね、毎日仕事を理由に外に出れる。βの俺なんかに誘惑される人なんて居ないのに過保護なんだ」
その言葉は鳴の皮肉と愚痴を織り混ぜた二人には中々に堪える言葉で、仕方なくボディーガードとしても動けるように三人で出掛けることにしたのだ。
旅行先で浴衣姿の鳴にときめく心はあれど、高校生の時のような全てを奪い去るような衝動は減った。
それでも……
「鳴ちゃん、お土産何がいっかな?」
「温泉まんじゅうは買おうか、職場分も合わせて。あ、あそこに売ってるの鳴ちゃん好きなのじゃない?」
周りを歩くどんな人間より、日常生活以外のテレビに映るきらびやかな芸能人たちよりも、目の前でお団子を見ながらキラキラと目を輝かせて予算にお団子は組み込めるか真剣に考えている鳴が、鳴だけが愛しくて堪らない。
首を噛んでも番にはなれない、それが定めだというのならばそれを掻い潜ってでも傍にいよう。
一度手にしてしまったのだ、離すなんてこと考えてたまるか。一生なんて生温い、来世でだって番として生きていく覚悟だ。
三人の家、リビングに入ってすぐに小さな戸棚が置いてある。
その一番目の引き出しに入った国が作った番証明書と、婚約指輪が三つ。
結婚式という名のお祝いパーティーでの一枚の写真の中に写る三人の手に持たれた証明書には三人が望んでいた言葉が刻まれていた。
『加賀見季秋、廣立統、伊野瀬鳴を番として認める』
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