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番の拷
18(終)
しおりを挟む番になることは不可能だと数値は言ってる。
θ機関の研究員が出した答。
けれど、その結果に反し季秋、統そして鳴の三人が番になることを望んだ。
βがΩに落ちたなんて話は聞いたことも無いために何もわからないが一番だがきっと大丈夫な気がする。雪村、濱本はそう感じていた。
加賀見、廣立の麻酔の効果が弱まり意識覚醒を確認したのはそれから数時間がたった頃。
目覚めたからといって即座に鳴に会いに行くことなんて出来ないのだがそれでも目覚めてまず知りたがった情報は鳴の安否だった。
成人男性のαでも最低三日は寝込み動けなくなる麻酔なはずなのに統は意識覚醒より半日程度で寝返りや車椅子を使えばトイレにも自力で行けるようになっていた。
驚異の回復力と一括りにしてしまってはいけない程。
研究員がもしかしたら麻酔器は正常に稼働していて効いていなかったのではないか、と疑うほどであった。
ただ、歩けるわけではなくもどかしそうにしている姿は年相応で、恋い焦がれる高校生。
話として自分達の想い人が自分達を想ってくれてることを知ったのに会いに行くことも話をすることも出来ないもどかしさは思春期の子達からすれば死活問題に近いものを感じてしまう。
「このままの回復力なら明日には会える。動けるようになってたら、全員集合で会議をしよう。君達が番としてより良い形となれるよう全力でサポートする」
まだぎこちない動きしか取れない統と季秋は、濱本に自分達の失態で巻き込んだのにどうしてここまで親身になるのか。と問う。
濱本は凄く悩んだ素振りを見せ、照れによる躊躇いはあるものの答える。
「俺の番が君達を守ると決めたから、俺もそれに乗っかっただけ。
θ機関は元よりイレギュラーの巣窟で、俺は君達と同じくらいの歳にΩの強制ヒートに当てられて全く知らない人を番にしてしまった。その人は正気に戻った時に取り返しのつかないことをしたと自ら命を絶った。
不可抗力とはいえ、番になった人が亡くなったんだ。怖くもなる。そんな全てを知った上で彼女は受け入れてくれた。噛めないことも何もかも。
番もΩなんだがフェロモンを出せない、感じないっていうイレギュラーだからさ。
お揃いの指輪を買って、番の証として持っている。それだけのことだが、意外と嬉しいもんだよ。
君達のモンブランと一緒、当たり前を増やしていけばいいんだ」
季秋は頭がいい、だからこそ常識に囚われていた。そんな気がしてしまって不甲斐なさすら感じてしまう。
統だって噛むことが全てではないなんて理解していたはずなのに、そのピースを自分達に当てはめることが出来なかった。
濱本の言葉で噛まなくても番になれる可能性をほんの少し得て希望を持った二人は悲しくはないというのに、涙を堪えることが出来なかった。
「鳴ちゃんに告白しに行こうな」
「あぁ、俺たちで幸せにしてあげような」
第二の性が開示されてから約五年、やっと三人はその感情に名前を付けることを許された。
雪村に濱本は第一関門としてはクリア出来たと嬉しさがあったが、難しく険しいのはここからの道のりであることを知っていた。
容易に大丈夫とも、安心だとも言えない。けれど今だけはきっとこの子達と共に喜ぶことは許されるはず。
雪村は鳴と話をしながら、早く二人に会いたいねなんて話題に花を咲かせ。
濱本は寝たままとはいえ嬉しさで涙を流す二人の肩をさすりながら、早く会いたいよな。頑張ろうぜと声をかけた。
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