番の拷

安馬川 隠

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番の拷

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 濱本、雪村は心底驚いた。
政府が作った麻酔器が二台同時に壊れ、必要な時に役に立たなかったこと。
そして、あれだけの興奮状態でありながら、自身の欲に勝ち守るを選んだ二人の選択を。


 Θ機関、緊急会議。
雪村、濱本を含めた七人と画面で繋がった六人、計十三人の人間がピリピリする空間に集まった。



 「今回の一件、合宿初日の夜だよ?誰がヒート起こしてパニックになると思う?」

 『αがあそこまでのヒートでありながら自制してくれたお陰で被害なく麻酔を打てたんだろ?』

 「麻酔の針が出ないとか笑えない。二個同時に壊れるとかあり得ない。世に出れば批判ものになる」

 『あの二人のお陰で私達の首も繋がっていると思った方がいい』



 当時の現場、雰囲気を知らない面子は自分達の保身に言葉が止まらない。
知っている者は皆何も言えやしない。

 二人が泣きながら真っ赤な顔で腕を噛み壁に背をつけてもがき続けていたこと。
はだけた伊野瀬が突き飛ばされた時にぶつけた場所と強く押さえ付けられていたのであろう痣そのままに泣きながら動けずにいたこと。
 知らないから呑気なことを言えるのだ。

 二人に打った麻酔は大人でも丸一日は動けなくなるもの。
今日一日を二人は拘束された無機質な部屋で過ごすことになる。
 腕の傷は数針を縫うほどの大怪我と言える。
麻酔が出なかったという最悪の事態であり、何よりも話すべきは二人の腕の傷の処置に関するものだろう。


 そんなこと言えぬまま無言を貫く雪村達のいる部屋に焦った様子で入ってきた白衣の人は書類を机に乗せると「あの二人は間違いなくヒート状態にあった。しかも意識がない間に確認した反応検査で二人はΩのヒート時に出るフェロモンによる刺激は二十三パーセントと極めて低く彼らはΩと番になることは極めて難しいと結果が出た」と言った。


 この結果に一番反応を見せたのは雪村だった。
二人が聞き取り調査で言っていた『甘い匂い』を伊野瀬から感じるという言葉の信憑性が極めて低くなったから。
Ωの強すぎるフェロモン、通常時の倍はあるヒート時にそれらを感じられない。それが何を意味するかを雪村は痛い程知っている。

 言葉を聞きながら徐々に曇り行く雪村の顔をみて悲しい顔をした結果を伝えに来た人は少しだけ声のトーンを上げて更に続けた。

 「……けれど、Ωのフェロモンの次に二人には対象者、つまりは伊野瀬の汗から摂取した微量なフェロモンにて反応を見たところ、反応数値は九十を越えた。
つまりは、あの二人は間違いなくβと番関係またはそれに類似た関係にあるといえる、β側は全く見られなかった傾向だから…一方通行ではあると言えるけど……」


 その言葉を聴いた雪村は決心したように、保身話を止めるように机をバンッと叩き「伊野瀬くんへの面談要請します」と大きな声で言った。
あまりにも珍しい行動に笑いを堪えきれなかった濱本はそれに乗じるように「目が覚め次第、α二名への面談ならびに、調書は此方が担当します」と言い切った。


 他のもの達はその圧に流されるように、じ、じゃあお願いしようかな。なんて責任を取らないように遠回しに許可しながら手を引くことを仄めかした。
雪村はその姿を目に納め、失礼しますと部屋を出ればΘ機関のトップに即座に『あの無能ども左遷願う』と要約すればとれる内容のメールを送信した。


 あの波乱の一日目夜を越え、翌午前十一時半。
合宿部屋とは別の部屋で一睡も出来なかった鳴の元に雪村が面談と称して会いに来た。
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