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番の拷
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しおりを挟む実験合宿一日目の夜。
どうしてこうなったのか、説明するには難しい。
鳴が愚痴を溢した後、統と季秋の本音を知った鳴がそんなに俺が番だというのなら噛めばいい。
噛んでも何も起きなければ、二人はただの幻想に囚われてただけってことになるだろ。と言い放ってしまったのだ。
その後ぎこちなさしかない食事時間、順番にお風呂に入り夜九時頃。
リビングでトライアングル状に並び座った三人は、どうすれば良いのかを悩んでいた。
αが番の項を噛む時、ある程度の興奮状態で唾液に鎮痛剤に似たフェロモン混じらせそれを噛んだ患部から流すことで痛みを緩和させる。
興奮していない状態では何も分泌もされない。
やってみようと言った当人は、二人が興奮することなどわかりはしない。
昔男子達が揃ってグラビアアイドルを見ながら、この人が好きだの興奮するだの言っていたような記憶をやんわりと思いだし、二人の前でパジャマの上だけ脱いで見せた。
柔く白い肌。
施設の服で麻痺していた鳴の匂いが服を脱ぐことで、溢れて二人の理性を壊していく。
抑制剤に頼りすぎた結果が、本当に危険かも知れないと言う場面で効かなくなるなんて聞いたことがあるが、今ここで例え抑制剤を打たれても効かない気しかしない。
ふーッ、ふーッと荒くなる息に鳴はどうしてか心がモヤモヤするのだ。
下唇を血が出そうな位強く噛む二人に、どうしようもない言葉にならないモヤモヤが生まれるのだ。
「…………くち…噛んじゃ嫌だ……」
言葉は幼馴染み二人が痛みに苦しんでいるのを見ていられないと向けたものなのか、それとも。
どちらにせよ、統の中の我慢はそう長くは続きそうになく。
バッと一瞬の事だった。
腕を引かれ、崩した体勢を覆うように鳴を押さえ付ける。
頬が床に当たり、腕が背中の方で固定され痛みと動けない苦しさにうぅっと言う声が出る。
一方の統は半分以上理性が失くなり、分泌された唾液が流れ口の端から垂れる。
普段であれば多少の興奮を覚えた時には抑制剤を打っていた為、ここまでの興奮状態は初めてに等しい。
季秋も同じように興奮が抑えられず真っ赤な顔をして鳴を見ながら涙を浮かべて耐えていた。
フェロモンが分泌し混ざった唾液は止まることを知らずに二人の口からポタポタと垂れる。
流石に豹変した二人を目の当たりにした鳴はαの本能に震える。
噛まれたら番になれるかもわからない、噛まれたら最悪命に関わるかも知れないという恐怖。
震える鳴を見ても興奮して前が見えない二人は鳴の首筋、項へと視線が向いて手が伸びる。
つぅッと項に触れる指が恐怖を最高潮に上がらせる。
「………ッ、!!いやだ、ッ」
鳴が組み敷かれながら、必死に漏らした言葉を聞いた瞬間、掴んだ手を放し、鳴を突き飛ばすように離すと自身の腕を噛み正気に戻ろうとした。
腕から血を流し、涙を溢しながら二人は痛みで理性を抑えようとした、が沈痛成分で中々治まらない。
麻酔はどうした、と見ても反応はない。
「めぃちゃ…………ッ、ごめッ、ごべんッ……はなれッ…てッ…!!」
苦しそうに、それでも泣きながら鳴を守ろうとする二人の姿はとてもではないが普段では想像もつかない。
「………ごめん、ごめんね……俺が、軽はずみな事言ったから……苦しめてごめんねッ。
俺二人のこと、好きだから…番になりたいけど…βだからッ……、噛まれてみたかった…だけなのに…怖くて……だからッ」
部屋の異常を感知した濱本を含めた数人が部屋に突入、季秋ならびに統に緊急で抑制剤ならびに麻酔を打ち別室へと運んで行った。
波乱の一日目が終わった。
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