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番の拷
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しおりを挟む鳴が自分自身に起きたことを理解するまでに数秒。
季秋と統の応援という名目で姿を見るだけ見て、自分の試合の時間までどうするかと教室に戻って座っていたただけなのに。
目の前にいる何故か泣いている女子。
その女子を守るように囲う女子数人、そして男子が三人。
制服胸元のマークで粗方第二の性がわかるが、泣いているのがΩ。囲うのがβとα。
「…結芽の番を誘惑して奪ったのってこの人で合ってる?」
「…うぅ、ひッく……うん、この人」
泣いているΩの女子の言い分では、Ωである彼女の番である男子を鳴が色仕掛けで奪い去ったとのこと。
中々に現実味の無い話、勿論事実無根のただの言い掛かりではある。
ただ、それを周りが否定しきれないのは統と季秋の存在がいるからであろう。
聞き流し続ける鳴に痺れを切らしたのであろう、一人の女子が「βの癖にαを誘惑するんだ、きっと身体使ってるんだよ」と言ったことで場の空気は今まで以上に悪くなった。
αの男子二人が喧嘩を売るようにドカドカと前に来れば、鳴の胸ぐらを掴み座っていた腰を力で引き上げた。
ガタンッと音を立てて倒れる椅子。
「そんなにα侍らせて楽しいかよ、俺は廣立が大嫌いなんだ…お前を壊したらアイツの顔は歪むかな」
αの一人、少し大柄の男は鳴の胸ぐらを掴んだまま鳴の顔面を拳で数発殴り意識を朦朧とさせると、他のβやΩの女子に向かい「コイツ、貰ってくわ」と担いで教室から出ていく。
もう一人のαは少し憂鬱そうな顔をして、大柄の男の後を着いていく。
鳴が去り姿が失くなって数分後、統と季秋が鳴の居なくなった教室に入った。
そのオーラに誰一人として近付くことすら出来ない。
ただ、状況を瞬間で把握した季秋は額の青筋が切れる勢いで「鳴はどこだ」とその場で吐き捨てた。
残っていた女子達は殺気に怯えて声も出せやしない。
何も返答がないことにさらに殺気だった禍々しい空間で、たった一人声をあげた。
「か、加賀見くんッ、わ、私の事見てどう思いますか!?、実は、私たちう、運命のつが………ッ」
そのΩは、先ほど鳴を泣いて番を奪ったと主張した本人。
声を聴いて、動画の一人だと断定した二人は更に眉間にシワを寄せた。
声と貰った情報ではΩ二人、β一人に先輩だったはず。
他にも害虫がいるのか。
わなわなと怒りに震える二人を追い立てるように他の女子も怯えながらとはいえ、番なのに一緒にいられないなんて、βに洗脳されて番の匂いすらわからないなんて、なんて可哀想なのと続く。
流石の限界も初めて失くなった気がする。
そう頭で考えられるのは、怒りを通り越して落ち着いているからだろうと二人は分析した。
めちゃくちゃに手を出して、二度と喋れないようにしてやりたい。
そう怒れば怒るほどに立っているその場の状況を理解する。
そういえば、この教室に入って香った鳴の匂いは微かだった。血の匂いに混じった確かな匂い。
居たことは事実、でも居ないということは既に。
「…なぁ、人って殺しても罪にならない方法ってないかな」
「同じことを考えてたね、匂い辿ればすぐに行けるよ。ここどうする?」
「統が先に行ってて、ここの女は俺が対処する」
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