番の拷

安馬川 隠

文字の大きさ
上 下
6 / 27
番の拷

6

しおりを挟む

 鳴が自分自身に起きたことを理解するまでに数秒。
季秋と統の応援という名目で姿を見るだけ見て、自分の試合の時間までどうするかと教室に戻って座っていたただけなのに。

 目の前にいる何故か泣いている女子。
その女子を守るように囲う女子数人、そして男子が三人。
制服胸元のマークで粗方第二の性がわかるが、泣いているのがΩ。囲うのがβとα。


 「…結芽の番を誘惑して奪ったのってこの人で合ってる?」

 「…うぅ、ひッく……うん、この人」


 泣いているΩの女子の言い分では、Ωである彼女の番である男子を鳴が色仕掛けで奪い去ったとのこと。
中々に現実味の無い話、勿論事実無根のただの言い掛かりではある。
ただ、それを周りが否定しきれないのは統と季秋の存在がいるからであろう。


 聞き流し続ける鳴に痺れを切らしたのであろう、一人の女子が「βの癖にαを誘惑するんだ、きっと身体使ってるんだよ」と言ったことで場の空気は今まで以上に悪くなった。
αの男子二人が喧嘩を売るようにドカドカと前に来れば、鳴の胸ぐらを掴み座っていた腰を力で引き上げた。
ガタンッと音を立てて倒れる椅子。


 「そんなにα侍らせて楽しいかよ、俺は廣立が大嫌いなんだ…お前を壊したらアイツの顔は歪むかな」


 αの一人、少し大柄の男は鳴の胸ぐらを掴んだまま鳴の顔面を拳で数発殴り意識を朦朧とさせると、他のβやΩの女子に向かい「コイツ、貰ってくわ」と担いで教室から出ていく。
もう一人のαは少し憂鬱そうな顔をして、大柄の男の後を着いていく。



 鳴が去り姿が失くなって数分後、統と季秋が鳴の居なくなった教室に入った。
そのオーラに誰一人として近付くことすら出来ない。
ただ、状況を瞬間で把握した季秋は額の青筋が切れる勢いで「鳴はどこだ」とその場で吐き捨てた。

 残っていた女子達は殺気に怯えて声も出せやしない。
何も返答がないことにさらに殺気だった禍々しい空間で、たった一人声をあげた。


 「か、加賀見くんッ、わ、私の事見てどう思いますか!?、実は、私たちう、運命のつが………ッ」


 そのΩは、先ほど鳴を泣いて番を奪ったと主張した本人。
声を聴いて、動画の一人だと断定した二人は更に眉間にシワを寄せた。
声と貰った情報ではΩ二人、β一人に先輩だったはず。
 他にも害虫がいるのか。

 わなわなと怒りに震える二人を追い立てるように他の女子も怯えながらとはいえ、番なのに一緒にいられないなんて、βに洗脳されて番の匂いすらわからないなんて、なんて可哀想なのと続く。


 流石の限界も初めて失くなった気がする。
そう頭で考えられるのは、怒りを通り越して落ち着いているからだろうと二人は分析した。

 めちゃくちゃに手を出して、二度と喋れないようにしてやりたい。
そう怒れば怒るほどに立っているその場の状況を理解する。
そういえば、この教室に入って香った鳴の匂いは微かだった。血の匂いに混じった確かな匂い。
居たことは事実、でも居ないということは既に。



 「…なぁ、人って殺しても罪にならない方法ってないかな」

 「同じことを考えてたね、匂い辿ればすぐに行けるよ。ここどうする?」

 「統が先に行ってて、ここの女は俺が対処する」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

Ωだったけどイケメンに愛されて幸せです

空兎
BL
男女以外にα、β、Ωの3つの性がある世界で俺はオメガだった。え、マジで?まあなってしまったものは仕方ないし全力でこの性を楽しむぞ!という感じのポジティブビッチのお話。異世界トリップもします。 ※オメガバースの設定をお借りしてます。

なぜか大好きな親友に告白されました

結城なぎ
BL
ずっと好きだった親友、祐也に告白された智佳。祐也はなにか勘違いしてるみたいで…。お互いにお互いを好きだった2人が結ばれるお話。 ムーンライトノベルズのほうで投稿した話を短編にまとめたものになります。初投稿です。ムーンライトノベルズのほうでは攻めsideを投稿中です。

甘えた狼

桜子あんこ
BL
オメガバースの世界です。 身長が大きく体格も良いオメガの大神千紘(おおがみ ちひろ)は、いつもひとりぼっち。みんなからは、怖いと恐れられてます。 その彼には裏の顔があり、、 なんと彼は、とても甘えん坊の寂しがり屋。 いつか彼も誰かに愛されることを望んでいます。 そんな日常からある日生徒会に目をつけられます。その彼は、アルファで優等生の大里誠(おおさと まこと)という男です。 またその彼にも裏の顔があり、、 この物語は運命と出会い愛を育むお話です。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

運命の人じゃないけど。

加地トモカズ
BL
 αの性を受けた鷹倫(たかみち)は若くして一流企業の取締役に就任し求婚も絶えない美青年で完璧人間。足りないものは人生の伴侶=運命の番であるΩのみ。  しかし鷹倫が惹かれた人は、運命どころかΩでもないβの電気工事士の苳也(とうや)だった。 ※こちらの作品は「男子高校生マツダくんと主夫のツワブキさん」内で腐女子ズが文化祭に出版した同人誌という設定です。

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

処理中です...