番の拷

安馬川 隠

文字の大きさ
上 下
2 / 23
番の拷

2

しおりを挟む

 央木おうのぎ高等学校。
この学校では他の学校と違い、基本的なクラス分けと違い第二の性で分けられる。
つまり、α性の季秋と統とβ性の鳴は同じクラスにはなれない。

 ただ、週に一限または二限。
共同の時間があり、全ての人間が集まり授業をする。
 その時だけは差別の無い空間、というのはどうしても難しい。
偏った思考の家族がいれば、その思考を強く受け継ぐのは子供たち。

 この学校にもどうしても生まれた偏見は払拭しきれない。


 「Ωの臭いが臭くて堪らない」


 授業の途中、グループワークで鳴のグループのαが言った言葉。
同じグループのΩ性の子はαのフェロモンに畏怖してただでさえ動けずにいるというのに、圧をかけるα。

 α性一人、β性二人、Ω性一人の四人グループ。
助けてあげられるのは両者のフェロモンに当てられることの無いβしかいない空間。


 「…臭いなんてわからないよ、彼女からは石鹸の良い匂いがする。
どんな理由があろうとも人を侮辱することはあってはならないよ」


 男性にしては小さめな身長。
青みがかった髪色、肩より伸びた髪。
琥珀の瞳、白い肌。
それでいても強く気高い精神。

 β性に言い返されたα性の男はひどく屈辱的な顔をする。
頬は怒りで赤く染まり、血が昇った頭では冷静な判断は出来やしない。

 教室全体に広がるほどのフェロモンは、Ω性の人間を圧で押さえ込み、同じα同士でも只事ではないことは理解できる。

 少し離れた所にいた季秋と統にもその異様なフェロモンは届く。
しかもそれが、自分達が番だと言い張る鳴のグループで起きているというのが理解できた時、一気に他人事ではなくなる。


 「平凡なβのくせにαの俺に指図するのか。しかもお前、αに尻尾振るΩと同じって話じゃねぇか。
αに媚びうることしか出来ねぇ能無しがッ!!」


 怒りに染まったαにはもう理性も平静も存在しない。
突発的に出た手が鳴の髪を鷲掴みした瞬間、怒りに染まったαよりも遥かに強い殺意のフェロモンがクラスに広がり、そのフェロモンは影響を受けないに近いβにすら伝わり動けなくなる。



 「「俺の番に触るな」」



 β性を番というのは可笑しい、言葉は喉から出かかっても出ることはない。
教師ですら不安になるほどに圧がかかる空間。

 怒りに包まれたαの首を掴む統に、鳴の髪を鷲掴みする手をへし折る強さで掴みかかる季秋。
 流石に二人がかりの圧には昇った血も下がるもので、徐々に平静を戻した男は目の前の殺意に血の気すら引いていく。


 「……Ωがどうとか第二の性がとか、そういうのどうでも良いんだ。
たださ、鳴に手を出されると俺はお前を容赦なく殺すよ」

 「匂いとかそういうの気にしないし、鳴以外の匂いを嗅ごうとも思ってないが…お前風情が掴んで良い髪じゃねぇよ、さっさと離せよクソ野郎」


 パッと離され部屋を包み込んでいた殺気が弱まった所で教員はα三人を職員室へと連行し、授業は打ち切りとなった。
 助けたΩの子は、名を原 美佐だと告げ後日お礼させてくださいと言って深々と頭を下げた。
純粋で可愛らしい女の子だと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

高嶺の花宮君

しづ未
BL
幼馴染のイケメンが昔から自分に構ってくる話。

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

番、募集中。

Q.➽
BL
番、募集します。誠実な方希望。 以前、ある事件をきっかけに、番を前提として交際していた幼馴染みに去られた緋夜。 別れて1年、疎遠になっていたその幼馴染みが他の人間と番を結んだとSNSで知った。 緋夜はその夜からとある掲示板で度々募集をかけるようになった。 番の‪α‬を募集する、と。 しかし、その募集でも緋夜への反応は人それぞれ。 リアルでの出会いには期待できないけれど、SNSで遣り取りして人となりを知ってからなら、という微かな期待は裏切られ続ける。 何処かに、こんな俺(傷物)でも良いと言ってくれる‪α‬はいないだろうか。 選んでくれたなら、俺の全てを懸けて愛するのに。 愛に飢えたΩを救いあげるのは、誰か。 ※ 確認不足でR15になってたのでそのままソフト表現で進めますが、R18癖が顔を出したら申し訳ございませんm(_ _)m

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

処理中です...