重愛の配信

安馬川 隠

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初めまして

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 凪里として生きている間は他人や周りに一切の興味関心は無い。動画で使えば、配信で紹介すれば…と仕事としての関心はあれども個人的な感想はどこにも無い。

 配信で『ヨリとコラボは自分が耐えられない』と発言したばかりだというのにSNSでは『見たい』『ナリヨリ夫婦を拝むまでは死ねない』なんてツイートに溢れていた。
 お前らに俺のこの感情を理解されてたまるか。腹の奥底で揺れる真っ黒な感情に凪里は点けていたスマートフォンの電源を落とした。



 
 最初に存在を知ったのは、出したはずのゴミが綺麗に仕分けされて『これは燃えないゴミです』ってメモ書きと共に部屋の前に戻されてたことから。
他人に興味関心が無いとは言えど、流石に度が過ぎた行動には興味関心というより怒りや気持ち悪さが勝る。

 存在を認識した上で意識して過ごしてみたら、毎日手紙が宛名も切手も消印も無いのにポストに入ってるし、普段家族すらも電話してこない仕事の連絡の非常用として用意してあるだけの家の固定電話の方に掛かってくる。

 いつもならば意識してない時は興味も持てず、ゴミの件だって気持ち悪さがあったとはいえ自分の非が生んだこと。適当に正しいことをしていれば止むことだとすぐに流してしまった。
 あぁ、これがストーカーってやつかぁと認識はしても別に気にせずに手紙は廃棄、電話は線を切ってしまえばかかってこない。自衛の術などいくらでもある。

 『無視でいい』と気にも止めなかった。


 気になりだしたのは、ストーカー行為が一年経った頃だろう。
『どうしてそんなに俺に興味を持ち続けられるのだろう』ただの小さな疑問からであった。

 行動としては単純かつ簡単なもので小さなカメラを玄関のポストや家の中が映る位置に設置するだけ。
ストーカーであるヨリは全く警戒心というものがないのか、堂々とカメラに映り手紙をポストに入れたり、たまに合鍵で部屋の中に入りゴミの分別や掃除をして幸せそうにしていた。
 自分が見つかり、避難されることへの恐怖心はどこにもない。まるで凪里が知ることはないと知っているかのように。

 毎日、仕事やらが終わり家に帰りカメラの映像を眺めてヨリの行動を見ている内にその『疑問』は『興味』に変わり、気付いた時には『信仰』に近い感情に変化していた。

 配信外での姿を見ていてもなにをしても幻滅することなく、凪里側が意図して作った異変に気付き手紙や行動にて気遣いをしてくれる。

 何百万といるファンを名乗る存在よりも『俺』を理解して愛してくれる絶対的な存在。


 ミイラ取りがミイラになるなんて言葉の通り、ストーカーしていたヨリを見ていた凪里がいつの間にかヨリをストーキングしていた。

 今となっては理解しか出来ないのだ。
『ゴミ漁りたい』
レシートとか見付けたら同じもの買いたいもんね。
『毎日手紙書きたい』
毎日知らない部分を知る度に愛しさが溢れて抑えられないもんね。
『課金しちゃう』
それで美味しいもの食べてくれて幸せそうにしてたら嬉しいもんね。
『裏アカまで全て監視』
だって、本音って表には出さないもんね。


 
 まるで追いかけるように配信者になり、性別不明と言われるほど凪里が好きだと言った姿そのままで健気に配信をしているヨリに愛しさしか感じない。
なのに、つい先日の雑談配信にてヨリは少し嬉しそうに報告したのだ。



「………そうなの、ゲーム配信者のちゃむたむさんからコラボのお誘いを頂いてて…」



 ……コラボ?俺以外と?あり得ない。
発言撤回しないといけなくなりそうだけど、他の奴を優先しようとするなんてヨリは悪い子なのかもしれない。
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