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怪異、異界に憑き
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しおりを挟む小学生の時、今となってはそれが低学年の頃なのか中学年なのかなんて思い出せない程に色褪せてしまった記憶ではあるが父方の祖父母の家に遊びに行った。
夏休みだった気がする、セミが鳴いていて、大智くんのためにとうもろこし茹でたろねなんて祖母が言ってくれて。
けれど途端に家の中の空気が悪くなって。
父と母は仲が悪かったから、何かあれば場所を選ばずに喧嘩した。
残った記憶でも鮮明にあるのはいつも怒鳴り騒ぎ、物を壊す母とそれを殴ってでも止めようとする父。
まだ、家庭として壊れてはいても保てていた関係だった気がする。
その時の俺はどうしようもなく不安で、怒りがあって、悲しかったのもあったのかもしれない。近隣に響く大きな音で喧嘩する両親とそれを止められずあたふたする祖父母に嫌気が差したんだと……明確な感情は覚えていないがとにかく家から飛び出した。
近い内に訪れる完全な崩壊を何処かで察しながら。
田舎には必ずと言って良いほど伝承があり、その伝承にはこれまた必ずといって良い程怪異が紐付けされる。
そして、決められた定めのように子供はその伝承を信じない。そして出会ってしまった時、なんで信じなかったんだろうと反省するのだ。
一週間の行方不明。その間の記憶はごっそり無い。
誰かと一緒に遊んだような気もするし、一人で飢えを凌いでいた気もする。けれど命の危機のように頭に刻まれるような恐怖も何もなかった。無だったといえば正解に近しい。
あの日から自分の中で何かがすっぽり抜けたような、けれども何が抜けたのかもわからない。説明もしょうがない。『八尺』という名前だけ微かに残ったまま大人になった。
…
闇のように感じていた世界がほんのりと光り付いて視界に闇以外が映るようになった。見えるもの、匂い、本当に微かに把握できる空間としてここは『家』だ。
どこか懐かしい香り、記憶としては古いもの。
「大智が帰ってきてくれた、家族になれる」
闇の世界で愉しそうな声を出すのはきっと八尺様なのだろう。微かに見える白い服はワンピースなのだろうか。ただ、声と記憶の八尺は男だった。
あやかしと呼ばれる存在には性別はないのかもしれない。出しやすい声が男の声で、着やすい服がワンピースなだけ、そう考えれば合点が行く点も多い。
この場所が何処なのかもわからないけれど、郷に入っては郷に従えというし、出れる確証もなければ何もないのだからただ無慈悲に死を待つより話をして最期を選ばせて貰えたらとても光栄なことではないか。
「……八尺様、あ、あのぉ、暗いので電気を……」
『大智はが暗いトコい嫌い?』
八尺の言葉が重なって聞こえる。何故突然そうなったのかわからないが空間が歪んでいるのかもしれない。
キーンッと鳴る耳鳴りが数秒続き、頭を抱えるほどの痛みに襲われる。
耳を手で覆いながら必死に落ち着こうと息を吐いてを繰り返す。あれ、どうやって息を吸うんだ?……ダメだ更に焦燥感に駆られてしまう。
『大丈夫、ゆっくり休んで。息は出来るよ』
ふわりと全身を包み込む感覚、鼻が微かに香る花の匂いを感じ取れた時張り詰めていた緊張やらが溶けやっと数ヶ月ぶりに寝れた。
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