実らなかった啜を

安馬川 隠

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成長期、そういうこと

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 とても、困ったことがある。

 あの日、香佑と二回目の夜を過ごした日。理由は単純なのだろうが貞操具を気絶している間につけられていたようで、起きてから外して欲しいと頼んでも時間が足りず外してもらえぬまま三日が経とうとしている。
香佑と連絡先を交換し忘れていたせいで、どうやっても外すことが出来ない。
大学での着替えはほぼ無いに等しかったからこそ助かったものの、家でも興奮することを悉く制限されている現状に興奮してしまい痛く苦しい。

 なにかしらで連絡が取れずこのまま一生とさえ思うと流石に萎えて悲しい気持ちにはなるが、それでも良いかもしれないと一瞬でも思える自分が嫌だった。


 香佑としても、この三日間は好きで何もしなかったわけではなかった。
突然入ってくるクレームは、誰かが対応しなければならない問題で。『施工場に異常がある』といわれれば確認しなければならない、何度も確認し問題ないことは明白だとしても。
案の定、問題は何処にもなく複数人ですべての確認をし落ち着きを見せたのがあの日から三日経った今になる。


 ただ、互いに三日程度で根を上げるのは、と。負けず嫌いの性格があるせいか弱音だととれるような発言は出来なかった。


「この数日、草太の付き合いが悪い。彼女でも出来た?」


 不意に大学構内で言われた一言にドクンと胸が鳴る。数日の間、細かくはあの乱交パーティと化したパーティの後から。
 皆はノーマルで楽しむということの認識が違うことを強く感じさせられたことと、今こうして普通に人として話している草太という存在が誰もいなくなった空間では全裸でアソコに貞操具を付けられて涎を滴しながら悦んでしまう人間以下の存在だと知られたくなくて、何処かよそよそしくなってしまう。それを付き合い悪いと感じてしまうのも無理はない。


「彼女じゃないよ、最近バイトを探してるんだ。金欠でさ」

「えぇッ!?草太くんでも金欠になるの?良いバイト知ってるけど、どう?」


 話のネタはなんでも良かった。そういった疑問の目から逃げられるのなら。
香佑との全てを知られぬように、悟られぬように。









 動くには暑い日差しが照り付ける外の世界。工事現場の作業員の仕事はハードで余裕なんて仕事中にあるはずもない。
そういえば、連絡先を交換していなかったと後悔している間に施工ミスでもあれば大問題に繋がる。必死に仕事のことか無心になることに集中して手と脚を動かす。

 やっと迎えた休憩で、草太のバッグにつけた盗聴器と同期してあるイヤホンを耳に着けてコンビニで買った弁当を口にする。
その姿は端から見れば音楽を聴きながらコンビニ飯を食う冴えないおじさんであろう。
脱げば凄い、も脱がなければわからないのだから。


 香佑は草太が好きだ。それはもうストーカーをしているくらいには。
必死に人としてあろうとする姿が可愛くて仕方がない。その唯一に近い必死の壁を壊して家畜として家にいてほしい。一生溺れる程の愛情をもって飼い殺しにしてあげたい。

 盗聴器の向こうで楽しげに友人達と話をする声にすら嫉妬しそうになる。余裕があるのならまだ外さなくて良いか。スッと感情が落ちそう思えば何故か心がスッキリとした。
余裕がなくなって、香佑が居ないとだめだとわからせたい。その気持ちはそうそう消えるものでもない。快楽を発散させるために呼ぶ名前は一つであることを学ぶ機会なのだから。

 買ったお弁当と野菜ジュースを飲みきれば、吹っ切れたように仕事に向かうのだ。
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