実らなかった啜を

安馬川 隠

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成長期、そういうこと

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 本当に、出来心。

 自分のセクシャル、そして性的趣向を理解してからとても世間一般には受け入れられないと。
諦めて諦めて、諦めることでなんとか保ち続けていた心がお酒という力を持って崩壊した。


 友人数名と呑んで騒いでのパーティーで、盛り上がりのボルテージの流れで乱交へと姿を変えた。
男女の入り乱れる空間で一人どうしても馴染むことが出来ずに「酔った、帰る」と抜け出した。
 ただ、大量に摂取した酒は抜けずフラフラと覚束ない足で何処まで辿り着けたのか。

最後の微かに残る記憶は、倒れ込んだかした時に心配してくれたとても顔が好みの男に出会い何かを話したところまで。


 覚醒の上、目覚めた部屋は何故かホテルの一室。
全裸で腰に今までで感じたことのない鈍痛が響く。
あ、これはやってしまった。そう気づくまでに時間はかからない。

 がくがくと震える足でシャワー室に向かえば鏡に映る全身に残る噛み痕にキスマーク、そして……
流石に全身の血の気が引いていく。どんなことをしたのかも粗方想像はつくが相手と顔を合わせなにを話せば良いのか申し訳なさでどうしようもない。
時計を見れば飲み会から十二時間は経過している。


 急いで大学に向かわねばならない。
ベッドでまだ寝息を立てている男に気付かれぬよう脱ぎ捨てられたズボンのポケットから財布を出し二万円を置いて逃げるように飛び出した。

 落とし物なんて気にする余裕もなく。



 大学に走れば友人たちの多くは二日酔いに頭を抱え、苦しそうに呻いていた。
「お前も二日酔い?」と笑いながらも迎えてくれた友人たちを見て、先ほどまでのあり得ない光景を忘れようと笑いながら話に参加した。
今日は流石に帰って寝るべ!と講義を終えて帰宅する道中。


「……あ、いた」


 忘れようと必死にもがいたことを嘲笑うかのように、昨夜の男が家の近くの公園前に立っていた。
記憶が曖昧すぎて、着替えたのかもわからないのだが、作業着は近くの工事現場の作業員が着ているものに酷似していた。

俺よりも遥かに歳上で、仕事終わりなのか汚れた作業着からは汗の匂いと制汗剤の匂いが混じりながらする。
オールバックの黒髪は、ホテルで寝ていたあのふわふわの髪と同一なのか疑わしいが、明らかに此方を知っている空気で問うことすら出来ない。
スタスタと目の前にやってきた男は「二万は多いな、あと忘れ物」とクツクツと笑いながら身分証と折り畳んだ二万を差し出した。


 何故かは全くわからない。けれども思ってしまったものは仕方ない。「なんで一円も使ってないの」なんて言葉を言ってしまったのは自分の中でも想定外。
男は心底不思議そうな顔をして、部屋に剥き出しの二万があったら怖くて使えねぇわな。と言った。そして続けて、それにこれを使ったらもう会えなくなる気がしたからさ。と手の甲に指を這わせるように撫でながら言う。

 昨日散々したのであろう下腹部が目の前の汗臭い雄を求めるように疼いてキュンと鳴る。
しかし鳴ったところで昨日したことを全く覚えていないけれど下腹部が疼くから抱いてくれなんて言えるはずもない。


「じ、じゃあ…その二万で…俺を……買ってよ」


 どうにも決まらない羞恥の紅に染まる中で必死に考えた口説き文句は今どき古くしかも色気がない。
流石にやらかしたかと、素に戻りやっぱなし。そう言おうと口を開いたタイミングと同タイミングで男は「いいね、買うよ。またホテルがいい?」と楽しそうに言った。


 出来心は、ワンナイトも越えた。
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