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甘くて、ほろ苦い
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しおりを挟む鈴兼 御廉は現在非常に暇していた。
国語、古文の授業中。
古今和歌集の中から自分の好きな和歌をプリントに書いてみよう、なんて一年の時にやれただろうテーマで自由に等しい作業時間。
気が向かない事を真面目にやっている周りが酷く立派に見える気すら起きてくる。
『ありつつも 君をば待たむ うち靡く 我が黒髪に 霜の置くまでに』
磐之媛命、俺はそんなに待てない。
白髪になってまで待てる恋ならば、それは恋ではなく憧れだろ。
この時代の恋愛が望まなくても結納させられ、決められた者の元へ嫁がなければならない、という時代背景前提で作られたものだからこそ共感し難い。
けれど、どの恋の歌も泣いたりしてたんだな。
好きでもない男に抱かれ、好きでもない女を抱く気持ちは今も昔も変わらず不快であることだけは確かだろうな。
少しだけ真剣に教科書に目を通せば、白紙のプリントに目もくれず窓の外を眺める作業に入る。
叶うはずの無い恋に対するやるせなさは理解できるつもりだ。
けれど、それを悔やむことだけはしたくないから俺は俺なりの方法でこの想いを伝えると決めている。
この和歌たちのように悲しみに明け暮れ想いを馳せるなんてごめんだ。
不意に、パサッという音が机の上で鳴り視線だけを机に戻せばルーズリーフを破り作った簡易的な手紙が投げ置かれている。
相手は容易に特定できるが、内容の無い悪戯の可能性があまりに高すぎる。
はぁ、と大きめの溜め息を吐いて外に視線を戻せば、ガタンと机に脚をぶつけるような音が近くからする。
やはり、予想通り。
無視して、外に目をやり続ければ、校庭の体育をやっているクラスが視界に入る。
例え、どんなに意識していなくとも、その他大勢、有象無象がそこに集まっていたとしても想いを寄せる。ただそれだけで何処にいようと見つけられる。
今日の体育は、持久走か。
転ぶだろうか、怪我なく終われるように願うしかない。
「皇祈!!、タイマー!!首から下げっぱ!!」
慌てたように少し離れた所から走る想い人は笑ってごめんと声の主の元へ行く。
その視線が全て、俺のものであれば…どれほど。
…
校庭に夢中になった御廉の机に置かれた手紙。
それは御廉の予想である悪戯ではなく、手紙の主が見つけた和歌。
これ、ミカの気持ちに近いんじゃない?という始まりに繋がり書かれたのは…
『飛ぶ鳥の 声も聞こえぬ 奥山の 深き心を 人は知らなむ』
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