実らなかった啜を

愛を語らば、

2

　鶴沼 慎太郎というのが名前で、主人公である夏彦の兄なのだそうだ。
一年前、学院の中で事件に巻き込まれ今まで目覚める兆しはなかったということ、毎日同じ行動をすることで目覚める可能性があるのではと考えた家族や使用人がいつもと変わらずに朝餉を伝え、学院に行く時間などを告げていたのだそう。

　母と名乗る人は百合子と、父と名乗る人は満作と言うそうだ。使用人の年配の女性はカノというらしい。
それから多くの使用人の名前を聞いたが中々全員を覚えるのは骨がおれそうだ。


　いくら思い出そうとしても、この作品の夏彦に兄がいるという情報は何処にもなかったはずだが、頭が痛くなる謎だらけで疲れてしまう。


　ベッドに横になりながら、この作品のキャラを思い出す。
主要キャラは五人。夏彦が主人公で一年で同級生の舛添 天都、一年先輩である二年烏丸 焔路、生徒会長三年雪成 壱之丞。そして、教員の越後 氷魚。


　物語の中では夏彦が総受けになって、乱れに乱れていた。記憶が卑猥なところしか思い出せないのは、自分の邪さは常軌を逸したものだったからだろう。
この世界に来るまでは彼女が居たこともない、夢に夢を乗せることしか出来ない典型的な童貞だった。

　悲しい話ではあるがこんな男同士入り乱れる作品に転生するのなら一度は経験を積むべきであった。


　舛添天都は三年に兄である舛添天利がいて、優秀な兄といつも比べられてばかりなことをコンプレックスに感じていた。
作品の中では、夏彦だけが天都を天都として見ていたからこそ恋い焦がれ夏彦を心から好いていた。
作品内の純愛枠は間違いなく天都と夏彦だったと思う。

　烏丸焔路は真面目すぎてしまう性格で、風紀委員という役割を必死にこなしていた。けれど、実際は姉が三人おり唯一の跡継ぎでやっと産まれた男児であった為想像を遥かに越えた期待と責任に常に押し潰されそうになっている。
　夏彦は純粋で、学院の裏にある石垣の裏でひっそりと泣いていた焔路をその純粋さで包み込み救っていた。
それを見て何度感動したことか。

　雪成壱之丞は特殊枠だと当時から感じていた。生徒会長、責任感に溢れ、雪成財閥の長男。全てが完璧とさえ言われる彼は夏彦と二人きりになるととんでもなく甘えたな子供になる。
赤ちゃんまでとはいかないが、夏彦の優しさと包み込む包容力がなければ為し得ないプレイをしていた。

　越後氷魚に関しては、夏彦の担任教諭。という単純な情報しかわかっていない。
自分の好みというのもあったが、合わなくてあまり見ていなかったので彼だけがいまいち……確か原作の方で飼い猫が天寿を全うした後綺麗にして部屋に飾ったか何かした描写を見てダメだ、これは触れちゃいけないやつだと離れた記憶がある。


　ヤバイやつらがうようよしていた、という記憶が強いがこの世界で自分の弟がそれの標的となるなんてなんて可哀想なのだ。
少しでも、苦しいシチュエーションからは守ってあげたいものだ。


　呑気に考え事の最中にそのまま夢の中へと落ちて、眠った慎太郎をよそに、事故で昏睡していた鶴里が起きたという情報は何処からか広がり、翌日目覚めた時自分が転生したこの世界が何処か知っているものとは違うことを理解することになる。