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時雨に
英雄は共に/2
しおりを挟むレスタン共和国の端、アスギネ王国から近い場所に位置する辺境の村、ミャネット。
農業が盛んである素朴な村で、人口が百人程度の小さな場所。此処に家を持ったのは愛する人の親御さんがこの村の出身だったからだ。
エグラド・カリトカカ。王国ではそう呼ばれていた名前ももう使うことはないと、新しい名前を村長に頂いた。
グラッド。愛する人は慣れずにエグと呼ぶことがあるがそれすらも楽しめるようになったのは心に余裕が生まれたからだろう。
短く刈り上がった赤い髪、傷だらけの肌、深緑の瞳。身長は百九十近く筋肉も相まって大きく見える体つき。そんな見た目とは裏腹に甘いものが大好きで小さい子と戯れながら遊ぶ姿は王国では絶対に見れることがなかった。
グラッドが愛する人はイズと呼ばれる小柄の大人しい人。
肩まで伸びた青い髪をひとつに束ね、白く柔らかい肌に百六十程度の小柄な身体。
常に下を向いて合うことが無い視線は、昔から変わらない。
「グラド、迎えに来たよ」と声が聞こえた方へ向きながら優しく笑うイズを周りの人は微笑ましく見ながら、小さくも音を立てながら近付き「グラッドさんはこっち」と向きを正してくれる。
あっ、と声を出しながら頬を赤く染め恥ずかしそうにするイズは誰が見ても可愛らしい。
あの戦争が無かったかのように平和なこの場所に来れたことを今となってはとても良かったと思っている。
イズとエグラドが出会ったのは、戦争の部隊編成後の訓練時。
戦争に赴く貴族の中には卑怯な手を使い、貧困層の平民に金を握らせ貴族の息子と年変わらず位の者を買い戦争に送り出す者がいた。王族ですらそれを見てみぬ振りをして、騒ぎにすることもなかったがイズもそうして買われた者の一人だった。
「父と母と弟や妹たちが、無事で健康に過ごせるのならこの身一つ犠牲にするのは簡単なんだよ」
そう言って微笑むイズに早い段階でエグラドは恋に落ちた。いつ命を落とすかわからない世界で気持ちなど伝えることは出来ないと区別をつけながらも、鉛の臭いに包まれた世界で互いに生きている時間を大切にした。
戦争から何日、何ヵ月経ったかわからない頃。
エグラドは瀕死だった仲間から敵に目印がある、それを辿れば敵陣に入れると聞いた。隠密行動故に誰かにどう動くかを言えぬまま、部隊から一定期間離れることになった。
その離れた期間で、エグラドは敵陣の長の首を取り英雄と呼ばれるようになった。
そうしてやっと戦争が終わると、エグラドはイズを迎えに行った。
イズは爆撃に巻き込まれ瞳を傷付け目が見えなくなっていたが命があることだけが唯一の救いだと笑って座っていた。
エグラドは血塗れた格好を隠すことなくイズの前に跪き
「…命をかけて守るから俺に守られてはくれないか。君が愛しくて堪らないんだ」
そう言ってイズに告白をした。
イズは平民と貴族では釣り合わない、それに男同士など…誰が認めようものですか。とあわてふためいたがエグラドの決心は固く、必ず共に添い遂げると言いきった。
その後、一時的帰国しなければならないエグラドにイズはミャネット村の奥にあるウサギのオブジェのある家で待つと耳打ちし離れ、エグラドは貴族をやめるために奮闘した。
そんな二人の暮らしは平穏そのものだった。
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