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時雨に
青春の壁/1
しおりを挟む初恋はいつの時代も叶わない。
それは男女だろうが、年齢だろうが何一つ関係無しに定められている。
実際には初恋を叶えて結婚、なんて話も勿論のことながら存在はするが多くがシンデレラストーリーとして話題の中に加えられてしまう。
テレビ番組のときめく青春のあれこれに体よく使われる内容の一部と溶かされ話をねじ曲げられて放送されるのがオチだろう。
例外なく、彼もその初恋のジンクスには勝てなかった。
当時五歳だった彼は、十四つ上の人に心を奪われていた。
彼は自分の兄の友人であった『スイ』と呼ばれるその人をずっと目で追ってきた。
しかし、スイもまた目で追っている人がいた。それが彼の兄と知るまでにそこまでの時間はかからなかった。
こればかりは神であろうが中々に難しい。
好きだから叶えたい、そんな願いを丁寧に叶えていてはこの世の全てが都合良く扱われ、多くの人間が烏合の衆となって個々の意味を成さなくなる。
禍福は糾える縄の如し、とは良く言ったものだ。
幼いとはいえ、その三角関係を崩せずにいた彼はその恋心を押し留めることにした。
いつかきっと、別の人間が現れて忘れることが出来るようになると信じて疑わず。
それくらいの慈悲は傷心の者に与えられる恩恵だろうと甘い考えのまま、十二年という月日が経つ。
十二年の月日は、背丈や体つきは勿論のこと髪型の好みや色味、人為的な変化を加えた。
はてさてと年々重くなるんだとまだ若いのにも関わらず笑いながら腰をまち上げる姿ですらとても格好よく見えてしまうのは、フィルターか何かがかかっているからだろう。
十二年という月日を経て得た妖艶さや、当時のたどたどしさの無くなった落ち着きのある姿勢に萎えることなどなく目を奪われるのだ。
「……でね、この方程式を使って……」
柔らかく言葉を紡ぎ、頭に入らない勉強の教えを聴きながら目に焼き付けるように姿を見つめる。
言わなければならないことも、喉に詰まったまま。
「……ん?みーち、聴いてないよね?…せっかく休日の日を使って苦手な数学を教えてあげようとしてるのに」
駄目なんだ、この綺麗な瞳に見詰められてしまうと。
駄目なんだ、この綺麗な声に包まれてしまうと。
…駄目なんだ、名前を呼ばれてしまうと。
「………スイくん、兄貴さ…来週帰ってくるよ」
「…え、マチが?そうなの?それは楽しくなるね」
兄の名前だけで頬を綻ばせるのだ。罪な男だ。
でも、その後が笑顔でなくなることを……知っている。
「…うん、たださ。兄貴、来週帰ってくるの報告しになんだよ…………結婚の………」
「……………え………」
奪うのなら、今なのでしょうか。
神様、願いを叶えなくて良いからタイミングは今だと背中を押してくれ。
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