甘くて、ほろ苦い。

安馬川 隠

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甘くて、ほろ苦い

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 「ほぉ、念願叶って良かったねぇ」

 「そないなことより、結べた直後に同棲はバカップルやないの?はよぉ別れそうやねぇ」


 高校生が付き合って、それが大人になって、結婚したとして添い遂げられる可能性は何パーセントだろう。
 ましてや男同士、兄弟という世間、社会が許すことのない関係性だとしたら。

 皇祈と結ばれた、その事実は今あることで未来まで持っていけるかわからない不確定要素。


 「………歌はやめるん?」

 「やめないでほしいって言われたからやめない」


 今ほど自分が、もしくは皇祈が女だったらよかったのにと思うことはない。
 誰に認めて貰いたい訳じゃない。
ただ、皇祈となんの理由もなく愛しあえる、そんな居場所が欲しいだけ。

 逃げないように、縛ってでも、切ってでも。
両足など失くなって俺が愛していられればいい。

皇祈はただ、俺に愛されててくれればいいのに。
 どうしてあんな顔をするんだろう。


 皇祈に愛されるためだったら、なんだって出来る。
どんなことにだって、手を染められる。
非彩でいることを皇祈が望むのだから、そこに俺の意志は関係ない。
 だから印をした、というのに。









 御廉と付き合ってから、不安が今まで以上にのしかかる。
本当に俺で良かったんだろうか、他にもたくさんの人間がいるこの世界でわざわざ男の俺を選ばなくても良かったんではないか。

 一時の不安は時に息を詰まらせる。

 御廉は付き合う前とくらべて、大きく変わった。
顔を合わせている時は何度も愛を伝えてくる、顔を合わせられないことの多い学校の時間は休み時間は必ず連絡が入る。

 昼休みはパシりに近い形で呼ばれては二人きりで昼飯を食べる。

 常に一緒にいてなお、あまりにも不安が消えない。


 「………俺は御廉の傍にいて良い人間か」

 「皇祈を否定するのなら例え親でも殺してみせるよ。
俺の愛に応えてくれた皇祈だけを俺が守るから、だから皇祈はそのままでいて、俺だけ見ていて」


 不安しかないのだ。
けれど、この不安すらも溶かすように御廉は今日も愛を歌うのだ。
今も大勢の人間のイヤホンから、街中のBGMからスピーカーから、流れて止まらない非彩の歌で俺を繋ぎ止める。


 …望んでいたはずなのに。


 『謎に包まれたシンガーソングライター、非彩が遂にあの大手事務所と契約、メジャーデビューをすることが決定』


 どうして、俺だけのものでいてくれないのだろう。

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