幸福奇譚

安馬川 隠

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本編

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 重東の行動は異常なものだった。
元々二つ所有していた自分の家の一つを宏臣用とし、ワンフロア全て所有していたがそこを捨てるようにもう一つの家へと向かった。

 豪我にしてみれば、この行動も予想通りで重東が宏臣を連れ叶真の運転する車が到着した時には既にそれまで行っていた『汚れ』の類いは全て片付けが終わった後であった。
豪我の部下が頭を下げて片付けは終わっていますと告げた時の重東の屈辱たるや部下達には伝わらない。


「……明日は、少し早めに迎えにきます。此処からだと目的地まで時間が掛かるので。ご指定の物は用意し明日お渡しします。若が落ち着く時間は必要と思いますんで、くれぐれも宏臣さんを壊さんよう気をつけてくださいね。じゃ、また明日」


 叶真はこういった異常事態の際の重東の扱いに長けている。怒りで我を忘れているようであれば無理矢理にでも宏臣から引き離し部屋に監禁でもすればいい、そう考えつつ言われた言葉を理解していることを表情から察し気持ち程度の選んだ言葉で別れた。
 余程、車に乗り込んだ直後に見た組長からのメッセージの方が冷や汗が止まらず恐怖を感じたほどであった。









 目覚め、ある程度の時間を過ごした部屋を高級ホテルのようだと宏臣は思っていたが、新たに連れてこられた場所は大きなログハウスで、キャンプ場等で借りることが出来るような作りの綺麗な家であった。
近隣に建物は無く、山々に囲まれ近くに川でもあるのか水の音がする。

 豪我が用意した家の中を綺麗に掃除する係が仕事を終え帰り、叶真が車で戻ったことを確認し終えるまで重東は宏臣の手を強く握ったまま離さなかった。
宏臣としては逃げることも出来たのかも知れない、さも当たり前のように重東の傍にいることに違和感も薄れていた。


 セックスしたから、心の繋がりが出来たなんて甘いことを言うつもりも信頼が生まれたとも宏臣は一ミリも思っていない。思う気も無かった。
逃げ出そうとすれば何があるのかなんて想像に難くない。『自分が重東に選ばれた理由』なんていうものに全く見当もつかないのだから。


「……気を取り直して、ルームツアーといこうか。ヒロは何処から見たい?案内するよ」


 わざと明るく気を取り直したように振る舞う重東の宏臣を握る手は強いまま震えている。何に恐怖を感じ、何に不安を覚えているのかを宏臣が察することは難しいことではあったが、同情に近い感情は優しく掴まれた手を優しく握り返すことだけは出来た。


 握り返されるとは思っていなかった重東はひどく動揺した。その姿は宏臣も初めて見る姿。


「………ッッ、き、危険なことに巻き込んでごめんね。自分の立場を軽んじてた。
そもそも誘拐してヒロを無理矢理自分のモノにした時点でヒロからしたら俺は恐怖の対象でしかない疫病神だと思うんだ……ででもね、これからは宏臣の人権を守りちゃんとある程度の自由をあげるし、今回みたいな危険なことに巻き込まないよう精一杯努力するから、どうか俺を嫌わないで、拒絶しないで欲しい。
 ………居なくならないで……」


 重東の弱々しい姿にどうしてか宏臣は心を掴まれたように脈拍が上がり背筋になんとも言えぬ電気に近いものが流れる感覚を覚えた。

 先程まで部下に強く芯の通った姿を見せていたのに二人になった途端弱くなるなんて、狙っていたとしても効果はてきめんであることはいわずもがなだろう。



 玄関から長い廊下を進み左手にある扉を開けると広いリビングへと進める。
リビングには大きなソファがあり、弱くなった重東を宏臣が案内するように進んで座るように指示する。手を握られていては動けないから座って欲しいと頼むように言えば重東は悩むことなく腰かける。


 宏臣は決して乗り気で動いたわけではない。躊躇いがちではあったものの、重東の頭を自身に引き寄せるように掴まれている腕を引けば重東は不意に体勢を崩し宏臣に倒れ込むように包まれる。
 宏臣の胸元に重東の頭が乗っかり、宏臣の上に乗っかるような形で包まれた重東は動揺しすぐにでも起き上がろうとしたが、引かれた腕は離すことなく繋いだままで上手く体勢を立て直せずにいた。


 すぐに立ち上がり、ごめんと謝るべき状況ではあることを知っている。


 宏臣はそんな焦りを顕著に現す重東を包み込むように身体を丸め抱き締めた。


「えッ、ひ、ヒロ。ごめんね!怖い思いをさせたのに更に怖い思いをさせてるよね、離していいから…無理しないで」


 重東は必死に口を動かし、宏臣の動きを制止させようとしたが、宏臣は柔く力を強めるだけで返事はしない、ただ抱き締めるだけであった。
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