幸福奇譚

安馬川 隠

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本編

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 ファイルに入っていた女の子達の情報には、通常面接の際に集めることなど無い全裸の画像もあった。廃棄されたであろう女の子には『処理』と赤ペンで書かれていて、今となっては生きているかもわからない。


「今此処にいるのは黒服くんが一人、サチさん、エリカさんと……ハルカさんでしょ…あった、リカコさんにリノさん、ユカさん……マナミさん、ユイさん、イチカさん……いた、最後がサクラさんだね。まだ処理されてないこの『ワカナ』と『アイコ』の二人はどこにいる?」


 学校の出席のように重東は眼前の女の子たちの名前を呼んで確認し、まだ処理と書かれていない二人の安否を確認する。
他に残っている子達には『井原』『串田』『本川』と名前がありその中には飯島と繋がっているのならばあり得るであろう繋がる人物の名前もあった。要は身請け、という名の人身売買だろう。


「…ワカナちゃんは今日、オーナーが昼間に電話で生理だから休むって連絡が来たって……」

「アイコちゃんは……今病院で入院中です……その、自ら命を絶とうとして…」


 ポソポソとではあったが情報をくれる女の子たちに重東は優しくありがとう、と再度告げた。
そして向き直るように、君たちの今後だけどと言えば全員がまるで拷問を待つ囚人のように顔を青くして震え出す。
重東は優しく言い聞かせるように、全員に明言した。


「俺は君達をどうにかするつもりはないよ。ただクラブロンティルを継続するにも君達にオーナーの資格は無い、知識も経験も無い。そもそも君達が夜職を続けたいかどうかも解らないし。
だから、借金は無い状態にし希望を聞いて継続の意思があるのなら俺の管轄に入るけどそこでも良いなら紹介をする。ロンティルは一時組の所有にして取っておくから」


 呆気に取られるとはこの事をいうのだろう。きっと売られるんだろうと考えていた者たちの脳内では希望を聞いて反映させてくれるなんて微塵も想像もしていなかった。
重東のさも当たり前のような立ち位置といい、話し方といい誤解が生まれるのは当然のような気がしたが今井の体制になってからいつ無くなるかもわからなくなっていた命を救って貰ったも同然の彼女達は一概に重東を悪とは言えなかった。

 ユイ、ユカ、マナミはエリカや他の人たちが残るならと言ったが、そのエリカ達に若いのだからこんな仕事してちゃダメなの、私たちは守ってあげられなかった。と残ることに反対し新たに頑張るべきだと言った。
 イチカ、リカコ、ハルカ、サチ、エリカの五人は残ることを断言し、同様にリノ、サクラは辞めると断言した。


 どのみち、止める権限も進んで煽る権限もない重東からしたらどちらの選択をしようと構わないのだが、女の子達は真面目に昼職でも行ける者とそうはなれない者とをはっきり分けた。
エリカを含む数人が止めたユイ、ユカ、マナミは確かに十代後半から二十代前半の若い者で今からということは確かであろう。
稼ぎが多くなければならない借金や病院での高額な治療費を稼ぐ者は残らねば実質やっていけなくなる。理解はできる、ただその感情は重東には全く生み出せないものだった。


 全員の意見を聞き終えた辺りで、叶真がとても楽しそうに店に戻ってきて『いつもの場所に』と重東に耳打ちした。わかったと言えば、叶真としても次のステップに移行する。
この方々の処分は?と不穏な単語で叶真が煽れば、重東はけひひっと悪い笑い方をして其々の行き先を告げる。


「エリカさん、イチカさん、サチさんの三人は『ティモーラ』に。リカコさんとハルカさんは『雪華』に送って差し上げて。俺の紹介だと。
ユイさん、ユカさん、マナミさん、リノさん、サクラさんは病院での検査後各々の家まで必ず送り届けるように」


 重東の言葉に、わかりましたと答えた叶真は携帯を取り出し何処かへ電話をかけ「若からの指示だ」と先ほどの言葉を復唱するように言った。
数分後には叶真を兄貴と呼ぶもの達が現れ、各々言われた場所に運ばれていった。
 closeの札が掛けられた店内に、重東と叶真の二人だけが残る。
黒服が持ってきたであろう、裏に向かって歩く革靴の音が静かな店内に響く。


「……若にしては、とても優しい対応なことで」

「利用価値がある、それだけの話。ヒロの元へ早く帰りたいから今井の処分を決めなきゃだ」


 裏で黒服が選ばなかった、というよりは選べなかった鍵のかかった引き出しを壊すように開けた中身を持ちながら重東は今井の元へ向かった。
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