111 / 116
4.敵国
63
しおりを挟むルドゥムーンの話を聞いていくにつれて、ラウリーには理解できない事がいくつか生まれる。
「かの方の存在は一体」
「なぜリリアリーティは輪廻転生をし、ギルティアは一切輪廻転生しないのか」
「魔獣をリリアリーティは操れるのか」
疑問を頭に思い浮かべれば、更に新たな疑問が浮かんでくる。
「ということは、私が虐げられる理由はリリアリーティ様がかの方に嫌われているから、ということですか」
ラウリーの質問にルドゥムーンはひどく悩んだ。
答えればどうなるかがわからない。けれど、ここまで物語が変化した以上、かの方は諦めたのかもしれない。
「この物語の主人公は『ウィリエール』であり、ラウリーは悪女なんだ。ヒロインを強く虐げ、断罪される。
かの方は書かれた『ラウリーは誰もよりも善であり、それを多くの者が知っていたのにも関わらずあの断罪の時誰も反論できなかったのはそうさせた絶対的な悪がそこにいたからなのであって、ラウリーは無実』と。
その言葉は決してヒロインが悪いのではない。
物語の全てを握るかの方の意思に背き、魔獣や獣人、今の世界の基盤を作ってしまったリリアリーティという『絶対的な悪』の名前を引き継いで生まれてしまったが為に君が虐げられる、という世界にかの方は書き換えてしまった。かの方はラウリー、君を嫌っているわけではないよ」
ルドゥムーンの言葉に嘘偽りは感じられなかった。
と、すればこの世界は全て
「ウィリエール殿下が幸せになるためだけの物語?」
ラウリーの言葉にルドゥムーンは返事や反応をしなかった。どちらの返答も答えになるが、正解にはならないと判断したからだろう。
ラウリーはこれをどうアウスに説明したら良いのかわからなかった。
どう説明しても、なんの収穫にもならない気がしてしまった。
そんなラウリーの表情を察知してなのか、ルドゥムーンは「ギルティアに話を聞くと良い。アイツならば…もしくはもう一人の三大柱と呼ばれる者に訊けば必ず新たな視点は開けると思う」とアドバイスをした。
ギルティア様は何処にいられる方なのかと問えば、龍の子であれば呼べるだろうな。と明確な返答を避けた。
迷いの森の時間軸があやふやであることは本に書かれていた情報として知ってはいたが、来てみたからこそ分かる。
決して落ちることのない太陽、常に一定に流れる心地よい風。
「……我が子の失態から始まった物語とはいえ、随分と苦しんできたことだろう。今一度、謝らせて欲しい。
変化し始めた世界にかの方の修正力が、働いていない今、かの方がこの世界に愛想を尽かし手を加えることを辞めたか、はたまた完全に世界を壊す方向へ向かっているのかは、もはや私にも分かりかねる。
ただ、ここまで変化し、娘の生まれ変わりであるラウリー、君が幸せになれる可能性があるのならば、私は身命を賭してでも君の力になることを誓おう」
ルドゥムーンは真剣な瞳でラウリーに言葉を伝えると、参ったなという表情をみせ、龍の子は待てないのだな。と呆れたような声で言いながら、一度私は君をこの森に閉じ込めたことがある。君の安全を守るために、ね。それを龍の子は根に持っているらしい。とラウリーに伝えた。
ラウリーはルドゥムーンと共に森の入口まで向かいながら「幸せになっても良いんでしょうか」と頭で考える。
ルドゥムーンは「なるべきだ。君には君の人生があり、それは決して娘の尻拭いをするためにあるものではない」と断言した。
森の入口に近づいた時、ラウリーが生きてきて感じたことのない殺意と怒りを感じ、動けなくなる。
ルドゥムーンは冷静に、またこの森を壊す勢いだなと呆れに近いため息を吐き、ラウリーに大丈夫だ、龍の子が威圧しているだけ、行こう。とラウリーの手を取る。
生きている人間とは思えない冷たい手なのに、どうしてか、心は温かくなる一方であった。
外の世界の景色が見える所まで出てきてまずラウリーが見たものは、シックス達に抑え込まれながら龍の姿で怒り狂うアウスの姿であった。
黒龍が暴れている、というだけでも妖精達の騒ぎは大きい。
けれどラウリーにはどうしてか、可愛い生き物にさえ見え始めた。
『彼は私を番だと言ってくれて、好意を持ってくれているようです。私にはまだ好きという感情が分かりません。けれど彼と共に生きれたら幸せだろうなって思うんです』
暴れ狂うアウスの姿を見ながら、惚気のような言葉を話すラウリーにルドゥムーンは目を瞬間見開いて驚いたが「肝っ玉が座っているところといい、君はやっぱりリリアリーティの生まれ変わりだね」と大きく笑った。
その声に気づいたアウスがシックス達をなぎ払い、森の入口に飛び込もうとしたのを見たルドゥムーンはラウリーを守りながら「龍の子、度が過ぎるぞ」と威圧した。
早く帰さぬのが悪いと怒りを露にするアウスにラウリーは駆け寄った。
2
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説


王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。


私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる