龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠

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4.敵国

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 ルドゥムーンの話を聞いていくにつれて、ラウリーには理解できない事がいくつか生まれる。

「かの方の存在は一体」
「なぜリリアリーティは輪廻転生をし、ギルティアは一切輪廻転生しないのか」
「魔獣をリリアリーティは操れるのか」

 疑問を頭に思い浮かべれば、更に新たな疑問が浮かんでくる。


「ということは、私が虐げられる理由はリリアリーティ様がかの方に嫌われているから、ということですか」


 ラウリーの質問にルドゥムーンはひどく悩んだ。
答えればどうなるかがわからない。けれど、ここまで物語が変化した以上、かの方は諦めたのかもしれない。


「この物語の主人公は『ウィリエール』であり、ラウリーは悪女なんだ。ヒロインを強く虐げ、断罪される。
かの方は書かれた『ラウリーは誰もよりも善であり、それを多くの者が知っていたのにも関わらずあの断罪の時誰も反論できなかったのはそうさせた絶対的な悪がそこにいたからなのであって、ラウリーは無実』と。

 その言葉は決してヒロインが悪いのではない。
物語の全てを握るかの方の意思に背き、魔獣や獣人、今の世界の基盤を作ってしまったリリアリーティという『絶対的な悪』の名前を引き継いで生まれてしまったが為に君が虐げられる、という世界にかの方は書き換えてしまった。かの方はラウリー、君を嫌っているわけではないよ」


 ルドゥムーンの言葉に嘘偽りは感じられなかった。
と、すればこの世界は全て


「ウィリエール殿下が幸せになるためだけの物語?」


 ラウリーの言葉にルドゥムーンは返事や反応をしなかった。どちらの返答も答えになるが、正解にはならないと判断したからだろう。

 ラウリーはこれをどうアウスに説明したら良いのかわからなかった。
どう説明しても、なんの収穫にもならない気がしてしまった。
そんなラウリーの表情を察知してなのか、ルドゥムーンは「ギルティアに話を聞くと良い。アイツならば…もしくはもう一人の三大柱と呼ばれる者に訊けば必ず新たな視点は開けると思う」とアドバイスをした。

 ギルティア様は何処にいられる方なのかと問えば、龍の子であれば呼べるだろうな。と明確な返答を避けた。

 迷いの森の時間軸があやふやであることは本に書かれていた情報として知ってはいたが、来てみたからこそ分かる。
 決して落ちることのない太陽、常に一定に流れる心地よい風。


「……我が子の失態から始まった物語とはいえ、随分と苦しんできたことだろう。今一度、謝らせて欲しい。
 変化し始めた世界にかの方の修正力が、働いていない今、かの方がこの世界に愛想を尽かし手を加えることを辞めたか、はたまた完全に世界を壊す方向へ向かっているのかは、もはや私にも分かりかねる。

 ただ、ここまで変化し、娘の生まれ変わりであるラウリー、君が幸せになれる可能性があるのならば、私は身命を賭してでも君の力になることを誓おう」


 ルドゥムーンは真剣な瞳でラウリーに言葉を伝えると、参ったなという表情をみせ、龍の子は待てないのだな。と呆れたような声で言いながら、一度私は君をこの森に閉じ込めたことがある。君の安全を守るために、ね。それを龍の子は根に持っているらしい。とラウリーに伝えた。


 ラウリーはルドゥムーンと共に森の入口まで向かいながら「幸せになっても良いんでしょうか」と頭で考える。
ルドゥムーンは「なるべきだ。君には君の人生があり、それは決して娘の尻拭いをするためにあるものではない」と断言した。



 森の入口に近づいた時、ラウリーが生きてきて感じたことのない殺意と怒りを感じ、動けなくなる。
ルドゥムーンは冷静に、またこの森を壊す勢いだなと呆れに近いため息を吐き、ラウリーに大丈夫だ、龍の子が威圧しているだけ、行こう。とラウリーの手を取る。

 生きている人間とは思えない冷たい手なのに、どうしてか、心は温かくなる一方であった。


 外の世界の景色が見える所まで出てきてまずラウリーが見たものは、シックス達に抑え込まれながら龍の姿で怒り狂うアウスの姿であった。
 黒龍が暴れている、というだけでも妖精達の騒ぎは大きい。
けれどラウリーにはどうしてか、可愛い生き物にさえ見え始めた。

『彼は私を番だと言ってくれて、好意を持ってくれているようです。私にはまだ好きという感情が分かりません。けれど彼と共に生きれたら幸せだろうなって思うんです』

 暴れ狂うアウスの姿を見ながら、惚気のような言葉を話すラウリーにルドゥムーンは目を瞬間見開いて驚いたが「肝っ玉が座っているところといい、君はやっぱりリリアリーティの生まれ変わりだね」と大きく笑った。


 その声に気づいたアウスがシックス達をなぎ払い、森の入口に飛び込もうとしたのを見たルドゥムーンはラウリーを守りながら「龍の子、度が過ぎるぞ」と威圧した。

 早く帰さぬのが悪いと怒りを露にするアウスにラウリーは駆け寄った。
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