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4.敵国
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しおりを挟むリリアリーティが絡む話となれば、話を聞きに行く相手は限られる。
アウスはまず迷うこと無く、ルドゥムーンに会いに行こうとラウリーに提案し、ラウリーはそれを承諾した。
ノルマン、センガルにも情報共有して良いかとアウスが聞いた際、ラウリーは深く悩んだが離す相手がアウスが言った限られた人間のみであること、そして他言無用を守れるのならばとそちらも承諾した。
アウスは重ねて、少し悲しげな表情も向けながら「ラウリー嬢が言う『俺と共に生きたい』にはまだ恋愛感情は混じっていないですよね」と問うた。
ラウリーは返答に困ったが、すぐにアウスの方が「良いんです、ラウリー嬢は幼い頃に既に皇太子殿下との婚姻が否応なしに決まり、花嫁修行を積んで、自分の感情よりも周りが決めたことに忠実だった人生を送ってきたんです。今すぐに分からなくても、一緒にいたいと思ってくれる、その先でラウリー嬢の感情が見えたらいいなって思います」と笑って話題を切り上げた。
もしかしたら話すら聞いたことがない『魔族』の存在があるかもしれない、という情報はノルマン達を大いに悩ませたが、王国帝国そして公国と三つの国の長が記憶を有していて、これほどまでに心強いことはない。
王国の書庫、帝国の資料庫、それぞれが国中の情報を見れる立場であったから、「とりあえず文献がないか調べてみよう」と動き出せたのだと思う。
ラウリーとアウスが迷いの森に足を向けたのは二人の話し合いから二日後であった。
森の入口付近に到着した時、まるで来ることを想定していたかのようにルドゥムーンの遣いがラウリーを歓迎し、アウスの森への侵入を拒んだ。
アウスとしては、過去のこともある故に容易に行っておいでと背中を見送れない。
迷いの森と、アウス達が生きる世界ではあまりに時間の流れが異なりすぎる。
アウスは遣いに『条件』としこちらに住むもの達の時間軸で一週間、一週間後に迎えに来るので必ず彼女を此方に帰してくれと頼んだ上で、ラウリーに必ず帰ってきて。と背中を見送った。
アウスはラウリーの背中が闇の奥に消えて見えなくなるまで森の入口で見送った。
ラウリーは初めて来るはずの迷いの森に懐かしさを感じながら奥へと進み、泉のある開けた場所まで進んだ。
周りにいる妖精達が「おかえり」「また痛い思いしたね」「ここにいれば誰もいじめないよ」と次々に言葉を続ける。
意識空間の中で会ったルドゥムーンとの再会は、想定したよりもあっさりだった。
「よく来たね、座れるところに座るといい。あまり時間を龍の子はくれなかったようだから。早めに用件を済ませないと」
ルドゥムーンはこれから何を問われるかすらも全て知っているかのように、一言「君は、いや私の娘は魔族と繋がったりはしていないよ」と答えを教えた。
ラウリーが頭の中で「ではなぜ、聖女の能力はあまりに低く、更には辛いことがこんなにも襲うのか」と考えれば、ルドゥムーンはとても悩んだが、教えられる範囲はあまりないことを許して欲しいと前おいた上で言葉を始めた。
リリアリーティは、正真正銘妖精王と呼ばれるルドゥムーンの子供であり、疑問視していた繋がりという面において妖精は母を持たないことが一般的であることを挙げた。
迷いの森のような神聖かつ、周囲と時間の流れが違う場所で根をはったルドゥムーンを中心に咲き誇る花や木々、そういった生き物から妖精は産まれるのだと。
リリアリーティのように大きな力を持ち、人形を保ち走り回れる者が産まれることは極めて希少で、少なからず『かの方』も喜ばれていた。
けれど、リリアリーティがギルティアと出会い恋に落ちてからが悪循環の始まりであった。
リリアリーティの本質は、何にでも興味を持ち実践してしまうような活発さが目立つ子で、その興味が森の中だけであればルドゥムーンも対応可能範囲内で守れた。
けれど同じ様に活発でリリアリーティと違い外の世界で動いていたギルティアと出会い、外を知ることで、リリアリーティの統制はとれなくなった、と言っても過言ではなくなってしまった。
触れてしまった、口にしてしまったのだ。
決して触れてはならぬと、かの方が禁じた一つの実を。
こともあろうにギルティアとリリアリーティは触れるだけでは飽きたらず、実を口にまでしてしまった。
かの方の怒りは計り知れなかったと思う。
かの方はとにかく決めた道をその通りに歩くことをもっとも重要視され、逸脱するものを許さない。
ギルティアとリリアリーティの髪が各々、実の毒素で漆黒に染まったことを確認したかの方は二人を完全に追放し、物語において王国建国の土台、悲惨な始まりとして晒しあげることを決めた。
しかし、ギルティアとリリアリーティが口にした実の力は凄まじく、魔獣を生み出し、魔力という存在を作り、本来産まれるはずが無い獣人というイレギュラーを生み出してしまった。
「かの方は、この世界を最も愛する方であったが根底が覆された日、この世界を最も憎む方へと変わられた」
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