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4.敵国
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しおりを挟むラウリーが真っ先に話題に挙げたのは、カガシが発動させた毒について。
なんの症状も現れなかったために、カガシは表立って残念さを表していたが、実はラウリーには毒の発生した瞬間、肩の辺りに焼けるような痛みがあったこと、痛みは瞬間的なものですぐに収まったが、腕全体を何かが締め付けるような痺れがあった。
そして、完全に痺れが失くなる瞬間、聞こえていたから間違うことはない、カガシの声ともう一人聞き覚えのある声が会話をしているシーンなのかが脳内を流れたという。
会話の流れは、カガシと聞き覚えのある声は魔法具を使って話をしていて、内容は『聖女に毒は効かないと思う』であったり『聖女の役割が本当に魔物を国周辺から守るためだけにあると思っているの?』というもの。
聖女の役割はラウリーが学んできたものでいえば『国を豊かにし、魔から国を守る。存在だけで加護があり、国の繁栄に繋がる』というもので、それを信じて疑わなかったが、その会話の中で、『今現状王国に聖女は居ないというのに魔物が王国を襲ったという事件もなければ、作物が枯れたや収穫が出来ないなどの問題もなかった。ならば聖女が居る意味ってあるのかしら』という言葉がラウリーにとっても疑問でならなかった。
ラウリーはアウスの言っていた言葉をもう一度復唱しながら、『この世界が本だとして、本ならば伏線が張ってあってラストを迎えるにあたって伏線は回収されるはず。ギルティア様は何か仰っては居なかったか?』とアウスに問うたが、アウスも聞いた覚えはなく首を横に振ることしか出来ない。
アウスの回答を聞いた上で、『では、なぜ聖国の主と話していた相手がそれを知っている風だったのか』と言葉を漏らせば、アウスの中で一つだけ嫌な想像が頭に浮かんだ。
マリアに訊いてみなければ詳細はわからないものではあるが、記憶を有して戻ってきたのはアウス、ノルマン、マリア、センガル、そしてメイア。
マリアはメイアからもらった情報を共有してくれたがメイア本人から何かを聞いたことは無い。
むしろ、マリアとの懇談以降マリアとも何かを話していた、情報を共有や知識の譲渡は行っていない。
メイアが見た本の内容はギルティア様から聞いていたものほぼ変わらずであったが、本の外側にある情報を有しているのは彼女だけ。
外側の情報を得ていたら、カガシというイレギュラーも判明していた可能性もあるのではないか。
どこからどこまでが情報の区切りになっていた?
カガシと通じていたのが例えばの話、メイアだとしたら。
上手く噛み合っていなかったことも、カガシが前回の情報を持っていることにも説明がつく。
「ユル、大至急アンヒス家の情報を集めてきてくれ。わかる限り全部の情報をここに集めろ」
アウスの言葉にユルはサッと動き消え、ラウリーは言葉を続けた。
二人の会話を知り、ラウリーの中で一つの仮説が作られた。その仮説で考えた時、虐げられる理由にも繋がると思うのだと。
『リリアリーティは妖精王と魔族の子供ではないか』
ラウリーの目は真剣であったが、アウスはその仮説を否定したかった。
『魔族』はこの世界においてほとんどの情報はなく、この世界には魔法が有り、獣人や異種族が存在している。
そうであれば、魔獣が存在している以上魔族の存在も否定は出来ない。
魔族と妖精族の子供であれば、幸せの象徴である妖精族が虐げられるというおかしな状況にも説明がつく。
「魔族の情報はほとんどなく、疑問点があまりにも多すぎますね、ただ、その仮説が一番こちらとしても納得は行く。この説の裏付けをするために尽力しましょう・
悩みはあったが、一縷の望みをかけてアウスは調べることをラウリーに誓った。
けれどラウリーの表情が曇ったまま晴れないことがアウスの中で不安であった。
「ラウリー嬢、不安なことは全部教えてください。裁判が終わったら貴女に求婚すると言ったにも関わらず、全く進展がないことをお詫びしてもしきれません」
アウスの言葉にラウリーは焦る。『貴方からの言葉は嬉しかった』『願わくは貴方と共に生きたいと』と本心を伝えたが、ラウリーの中で不安なのは、そこではないのだ。
『もしも、自分が魔族の血をもっていたとしたら、周りの人間にも不幸が舞い降りている現状の説明がつく。そうなれば、貴方と共に生きていくことを決めたら貴方に不幸が降りかかることになる。
私はその懸念が一番怖くて、自分を許せなくなりそうなのだ』
ラウリーの懸念点、本心をアウスがこうして直接聞くのは初めてかもしれない。
なんと嬉しいものなのだろう。
「…………そんなことを悩んでたのですか。いや、違うな。そんなこと、とは失礼な言い方をしてしまった。
貴女はお忘れかもしれないが、俺は黒龍なのです。
黒龍は多くの国や伝承で『災厄を招く不幸の象徴』とされています。
まだ出会ったことはないが白龍が真逆の『幸福の象徴』だとも聞いています。
貴女は俺が黒龍だとしった上で蔑みますか?求婚を断りますか?想いを覆すほどの嫌悪感が生まれますか?」
涙を目に溜めながら首を横に振るラウリーに、俺もそういうことなんです。とアウスは優しく微笑んだ。
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