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4.敵国
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しおりを挟むラウリーの言葉を受けたこともあったが裁判の再開予定日が決まらない以上、センガル、アウスともに帰国することになった。
ラウリーは自身の判断で公国に行くことを自ら両親に打診したようで、ラウリーの情報をラウリーに許可も取らず言おうとした申し訳なさからだろうか、オズモンドは首を横には振れなかった。
最低限の荷物でアウスと共に公国へ向かうラウリーにシャルロットは「あの子はきっと公国へ嫁ぐのでしょうね」と小さく漏らした。
オズモンドは「この国であの子が受けた仕打ちは私も許せない。けれどだからこそラウリーには幸せになってもらわないと。あの子の言葉を待つよ」と言いつつも寂しそうな声で「大人になるのは早いな」と呟いた。
裁判にあたり、公主不在だった公国は出立前とほぼ変わらずで、ラッキーカードによる事件も蔓延してはいない様子が、寄る場で報告された。
公主邸に残った使用人達の能力も高く、文句のつけようがない状態を維持していてくれた。
『おかえりなさいませ』と迎い入れる使用人達との距離は出立前よりも近く感じる。
裁判前、使用人達とコミュニケーションが取れずどれほどの距離でいればいいのかわからずに離れていくアウスと、同じ様に近づけない使用人達の距離を取り持つためにラウリーがアウスに向けて行ったちょっとした作戦。
使用人の多くに手を借りて、集めたアウスへのミニレターを纏めて一冊の本にした。
話すことが難しいならその思いを文字で伝えればいい、声を出すことのないラウリーだからこそ実行しようと思い付いたもの。
最後はデフィーネにお願いをして、仕事の資料の中に混ぜて渡してもらえれば必ず目は通す。
そのミニレターにはラウリーも参加した。
沢山の感謝と、アウスがいたからこそ出来た実現できた事を一つ一つ手書きで。
文字を書くことが難しいものには、ラウリーが話を聞きながら代筆までした。
『公主様がいなければ私はあの場で命を失っていたでしょう。今の生きていてよかったと思える世界に私が生きているのは公主様のお陰です、本当にありがとうございます』
『賊から逃げ出し、助けを求めた私の話を周りの人は罠だと否定したのに公主様だけは信じて家族を助けてくれました。感謝してもしきれません。このご恩いつか返せるその日まで、使用人として働かせてください』
アウスが今までしてきた結晶。
ラウリーがアウスを知る一歩であり、アウスが使用人たちと向き合う一歩になった。
アウスはその本を読んだ日から、食事を摂りたいと自ら厨房へ伝えに行き「最近はあの、パンケーキみたいなのにブルーベリーが乗ったのは出ないのか」と過去に出た料理を名前までは覚えていなくとも伝え、厨房の者もあぁ!あの!またお作りします!と明るい笑顔を見せた。
アウスが一歩踏み出せば、使用人たちも負けじと踏み出す。
公主邸にあった敬意から来る畏怖のようNものは薄れたように感じた。
その違いは遠征より帰ってきた事で更に感じる。
離れすぎていた距離が近づき、表情はぎこちなくとも話しは途切れること無く続く。
ラウリーとしても一目瞭然の変化に喜ばしさを感じていた。
『ここに居れたら幸せだろうな』という感情は、今のラウリーの心を暗くする。
アウスはそんなラウリーの表情の変化を見逃さずに、落ち着ける部屋に移動しようと優しく促した。
久々に再会するラウリーを見たラムルそしてエピチカの喜ばしい表情はラウリーの心を温める。
「おかえりなさい、大変でしたね」と私たちから問うことはないという姿勢を見せた二人に、ラウリーは本心から『ここに帰ってこれて嬉しい』と強く思った。
アウスからある程度の説明を受けたラムルは、ラウリーが伝えるべきことを一言一句間違えぬよう全身全霊で頑張りますと意欲を見せた。
ラウリーが決心したら開始すると決めた話の場には、アウス、ラムル、エピチカ、そしてユルの五人の少数でアウスの使う談話室で行うこととなった。
アウスとラウリーからすれば帰宅から数時間で始まったものではあったが互いに疲れはそこになかったように思える。
『それでは、始めます』
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