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4.敵国
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しおりを挟むウィリエールの言い分は想定外だったと言えよう。
まさか、マーガレットに惚れたと言うとは思わなかった。
けれど、ウィリエールはひどく真剣な顔でマーガレットの思想は理想で、喋らない聖女の力で誰かを救うこともしないでただリリアリーティの名前を引き継いだからと言う理由でちやほやされ王族である自分と婚約まで…厚かましくまさしく悪女ではないか。とこの場に及んでなおラウリーを侮辱しマーガレットの方が秀でていると強い眼で熱弁した。
ラウリー本人も後ろでウィリエールや一般の者達が見えない位置で座っていることを知らずに、ウィリエールの小さな刃のように放つ言葉に俯く他なかった。
アウスはそんなラウリーの気の落ちようを感じ取れてしまった。気が立ち、ピキピキと音を立てながら鱗が首から現れ見えはじめ、怒りで震えるほど掌を握り爪が食い込み血が流れる。
「………あのクソガキは何を言っテ……」
「アウス、本性が出始めてる。隠して、まだ今じゃない」
アウスは決して飛びかかったり等しなかった。それはアウスにとって最後の理性であった。
裁判官はウィリエールの言葉を全て聞いた上で問い掛けた。『では貴方は恋に落ち現を抜かしたが故に今回の失態を犯したと、そういうことですか』と。
あり得ない、そんな感情の赴くままに大事になるまで止めることもせずに後ろからその事態を煽り大勢の被害を出したというのか。
ウィリエールの答えは『肯定』であった。
肯定をした後にウィリエールはマーガレットを魔女と言い換えた上で訴えかけた。
「魔女は私の事を洗脳し、今回の悪事を企てただけでなく全ての責を私に投げようとしている。許される話ではない、どうかかの魔女に制裁を」
その言葉はウィリエール本人が聖国と繋がっていないことを証明し、アウスとセンガルの警戒心を緩めさせた。
マーガレットの死をウィリエールは知らないということだから。
誰も想定できなかったと思う。
一般席一番後ろかつ一番端の席に座っていたカガシがその場からジャンプするかのようにウィリエールの立つお立ち台付近まで飛んだ。
ダンッと鈍く大きな音を立て、その場にいる全員を驚かせた。例外無く全員が驚いた。
「王国の王子様、って言うから期待していたというのに。あまりにも不出来でみっともない。玩具にもなりやしない。失望した」
カガシはとても残念がる表情をし、項垂れる素振りを見せた上で「これでは何の前座にもならん」とウィリエールを見下した。
突然の乱入に驚いてはいてもカガシは一国の長、下手に外交のトラブルに発展しそうなことは発言や行動は出来ない。
言葉を失い、唖然とする空間でカガシは興醒めしたと何度も言いながら、もうこの際面倒だから言おう。と表情を切り替えた。
「マーガレットだったか?治癒能力のある弱者は死んだよ。ラッキーカードは願いを叶えるんだ。お前も願ったろ?そして叶った。今回も誰かの願いが叶ったんだよ」
ウィリエールが口から息が出るように溢した「は、」というたった一文字はその日の裁判で最も本心に近い言葉だった。
「マーガレットが死んだ…あ、あり得ない。彼女の治癒の能力はとても高かったはず」とウィリエールは現実逃避するように早口で言葉を並べたがカガシに「他者を治癒は出来ても己は治癒出来ないなんて珍しくないだろ」と一蹴した。
「……つまらないな」とカガシはその後数分程度無音に包まれた会場を一周見回して呟くと、向き直るようにアウスのいる方向を正面へと切り替えて話を始めた。
「愚かだとは思わないか。
両親を人質にされていたとしても周りの反応に溺れ堕ちた女も、そんな女のおべっかを真に受けて心底惚れ込む一国の王子も、必死に決まってる未来を壊そうと無駄に足掻き続ける奴らも………そして何より喋れないことを何の疑問にも持たず仕方ないと違和感すら感じることのない元奴隷の聖女とかな……」
開いた口が塞がらないというのはこういうことだろう。
アウスが半龍化しラウリーの元へと飛び耳を塞いだのは誰にも見えなかった。ただ、遅かった。
言葉を飲み込み情報を整理し終えるまでは静かだった空間も、理解できてしまえば信じられないと声が上がる。
そしてカガシは言うのだ、ラウリー・デュ・カルデラ・エトワール=リリアリーティは元奴隷の最下層の家畜以下だと。
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