104 / 116
4.敵国
56
しおりを挟むウィリエールの言い分は想定外だったと言えよう。
まさか、マーガレットに惚れたと言うとは思わなかった。
けれど、ウィリエールはひどく真剣な顔でマーガレットの思想は理想で、喋らない聖女の力で誰かを救うこともしないでただリリアリーティの名前を引き継いだからと言う理由でちやほやされ王族である自分と婚約まで…厚かましくまさしく悪女ではないか。とこの場に及んでなおラウリーを侮辱しマーガレットの方が秀でていると強い眼で熱弁した。
ラウリー本人も後ろでウィリエールや一般の者達が見えない位置で座っていることを知らずに、ウィリエールの小さな刃のように放つ言葉に俯く他なかった。
アウスはそんなラウリーの気の落ちようを感じ取れてしまった。気が立ち、ピキピキと音を立てながら鱗が首から現れ見えはじめ、怒りで震えるほど掌を握り爪が食い込み血が流れる。
「………あのクソガキは何を言っテ……」
「アウス、本性が出始めてる。隠して、まだ今じゃない」
アウスは決して飛びかかったり等しなかった。それはアウスにとって最後の理性であった。
裁判官はウィリエールの言葉を全て聞いた上で問い掛けた。『では貴方は恋に落ち現を抜かしたが故に今回の失態を犯したと、そういうことですか』と。
あり得ない、そんな感情の赴くままに大事になるまで止めることもせずに後ろからその事態を煽り大勢の被害を出したというのか。
ウィリエールの答えは『肯定』であった。
肯定をした後にウィリエールはマーガレットを魔女と言い換えた上で訴えかけた。
「魔女は私の事を洗脳し、今回の悪事を企てただけでなく全ての責を私に投げようとしている。許される話ではない、どうかかの魔女に制裁を」
その言葉はウィリエール本人が聖国と繋がっていないことを証明し、アウスとセンガルの警戒心を緩めさせた。
マーガレットの死をウィリエールは知らないということだから。
誰も想定できなかったと思う。
一般席一番後ろかつ一番端の席に座っていたカガシがその場からジャンプするかのようにウィリエールの立つお立ち台付近まで飛んだ。
ダンッと鈍く大きな音を立て、その場にいる全員を驚かせた。例外無く全員が驚いた。
「王国の王子様、って言うから期待していたというのに。あまりにも不出来でみっともない。玩具にもなりやしない。失望した」
カガシはとても残念がる表情をし、項垂れる素振りを見せた上で「これでは何の前座にもならん」とウィリエールを見下した。
突然の乱入に驚いてはいてもカガシは一国の長、下手に外交のトラブルに発展しそうなことは発言や行動は出来ない。
言葉を失い、唖然とする空間でカガシは興醒めしたと何度も言いながら、もうこの際面倒だから言おう。と表情を切り替えた。
「マーガレットだったか?治癒能力のある弱者は死んだよ。ラッキーカードは願いを叶えるんだ。お前も願ったろ?そして叶った。今回も誰かの願いが叶ったんだよ」
ウィリエールが口から息が出るように溢した「は、」というたった一文字はその日の裁判で最も本心に近い言葉だった。
「マーガレットが死んだ…あ、あり得ない。彼女の治癒の能力はとても高かったはず」とウィリエールは現実逃避するように早口で言葉を並べたがカガシに「他者を治癒は出来ても己は治癒出来ないなんて珍しくないだろ」と一蹴した。
「……つまらないな」とカガシはその後数分程度無音に包まれた会場を一周見回して呟くと、向き直るようにアウスのいる方向を正面へと切り替えて話を始めた。
「愚かだとは思わないか。
両親を人質にされていたとしても周りの反応に溺れ堕ちた女も、そんな女のおべっかを真に受けて心底惚れ込む一国の王子も、必死に決まってる未来を壊そうと無駄に足掻き続ける奴らも………そして何より喋れないことを何の疑問にも持たず仕方ないと違和感すら感じることのない元奴隷の聖女とかな……」
開いた口が塞がらないというのはこういうことだろう。
アウスが半龍化しラウリーの元へと飛び耳を塞いだのは誰にも見えなかった。ただ、遅かった。
言葉を飲み込み情報を整理し終えるまでは静かだった空間も、理解できてしまえば信じられないと声が上がる。
そしてカガシは言うのだ、ラウリー・デュ・カルデラ・エトワール=リリアリーティは元奴隷の最下層の家畜以下だと。
6
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説


【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

欲に負けた婚約者は代償を払う
京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。
そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。
「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」
気が付くと私はゼン先生の前にいた。
起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。
「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる