龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠

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番外編

大陸内の国

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 広大な土地には多くの生が住まうというが、ここでの話はある程度大雑把に区分化したものだと思うと分かりやすい。



 フィロシスコヘデン・アンテベーダ=ノルマンが玉座に座り統治する国『モディフス王国』は王政を使い大陸内で最も大きく土地を占めている。
 大陸を地図として見てみた際には上部に位置し真ん中が盛り下がる形をしている。
王国内にも幾つかの集落は存在し、栄えているのも王都を囲う一部である。

 モディフス王国の特徴は玉座に座る『王』が最も偉いとされているが、それとは別に貴族位があまり浸透していない王都から離れた地にもそれぞれの集落に長がいてそれらも独自国家に近い形で国を運用することを認めているという点。

 この制度自体はノルマンが王となってから施行されたものであるが、デクドーによる力での支配、統治からの脱却を目論むもの達にとっては拍子抜けした内容であった。



 アウス・リュドヴィクティーク・ド=シュヴァイス・フィークが統治する国『モディフス公国』は王国や帝国のように王といった絶対君主制から外れた公爵であったりとある程度の地位の者が治める国。
大陸内地図で見ると王国の右下に位置し、帝国と隣同士でより内陸側にあるのが公国。
 元々王国の植民地に近く、獣人も多かった公国の領土では王国の奴隷制度の制定と共に国としての機能はなくなり、人間より優れている龍人族が壁となることでほんの一握りの奴隷を匿う程度のものだった。

 アウスの両親は奴隷を憂いはすれど、明日は我が身の世界で一握りの奴隷に与える慈悲が精一杯であった。
しかし、現公国使用人デフィーネが奴隷として働いているのを見たアウスが「あの子を助けたい」と言ったことで一念発起。
奴隷解放の英雄とまで呼ばれ崇められる程、リュドヴィクティーク家の評価は上がり、アウスに当主交代する直前に公国として王国より独立。
 多くの奴隷を守り、どんな種族も平等に扱う全てがフラットな国を掲げ建国した。



 センガル・メフィ=トスミート・アンテが統治する国『ラスティート帝国』は元奴隷であるセンガルを長とし完全に王国に敵対する形で奴隷を守り保護する為に独立し建国した類を見ない国。
大陸内地図で見ると王国の右下に位置し、公国と隣同士でより海側にあるのが帝国。
リュドヴィクティークと同時期に建国したのは、センガル自身が奴隷であった際リュドヴィクティーク夫妻に救われ人間として生きる道を貰ったからであり、アウスもセンガル、デフィーネ、ユルの三人を腐れ縁と言える程には長い付き合いではあった。

 帝国と公国の違いは、公国では奴隷であっても望み努力すればある程度の地位に立てるということ。帝国はそういった面でいえばフラット過ぎて特出した釘を打ってしまう。
全てにおいて平等を正義としたのが帝国、人権を守りその個々の意志を強く尊重したのが公国であると言える。 


 カガシが長を治める国『ランブル聖国』は、地図上で言えば公国の左隣に並ぶ幾つかの小国や集落の中の一つ。
聖国の信仰する神ランルと呼ばれる犬は、三大柱の一人であるルドゥムーンの娘でありもう一人の三大柱ギルティアの妻であるリリアリーティに噛み付いた神をも恐れぬ犬としてその名前を広く知らしめた。
 神の血を得たことで獣人を生み出すきっかけになったのではとさえ言われており真偽は不明でも多くの聖国民は強き者であれぱ例え獣人だろうが人間だろうが種族を問うこともそれによって差別することもない。

 聖国のモットーは、強きが生き弱きは死すであり言葉の通り強ければ強いだけ聖国ではより正しくより良いとされている。
 現長であるカガシもそうであるように、ランブル聖国では長のみが名乗れる名前が存在する。
カガシは普段この名前で呼ぶことも呼ばれることも無いのだがもしも正式な場でフルネームを出さなければならない場合、長しか使うことのできないランルニという姓を名乗る。



 シエーラ・サイドならびにコネリー・サイドが統治する都市『エニカフニ』は、まだ国を名乗れるほどの土地を占めてはおらず人口も国となれる基準からあと一歩と言ったところで止まっている都市の一つ。
 国ではないが地図上では公国の隣に隣接する聖国を含む集落などの一つ。

 この都市の最大の特徴は、王国、帝国、公国、聖国のどれにも合うことがなかったもの達が集まりそれらの国からの侵攻から身を守るために塀を築き今となってはとても繁栄した一つ国と遜色ない場所に成長した。
 ただ、先にも書いた通りエニカフニは都市であり統治する者はいても国ではない為、形上はマスカリート王国の管轄にはなっている。



 アスナロ・トマリが長である『リシラカ村』は地図上では公国より左側に聳える大きな山の中にありその山が王国から聖国の方へと続き、リシラカ村は王国やらとは完全に分離した完全に孤立した場所だと見える。

 実際は地図で見るよりかは分断されておらず行こうと思えば行けるのだが、豊富な山の幸、マスカリート王国との交易で生計は立てられておりいう程に孤立化や貧困というわけではない。
公国ではリシラカ村は鳥の獣人が住んでいる、や帝国では森に順応できる獣人しかいないなど偏見に近い説があるが確かめに行ったものは居ないという。



 現在王が不在である国『マスカリート王国』は公国との折り合い悪く、不定期に戦争を起こしては必ず負ける地図上では最も左側に位置し、王国や公国と一切接する面がない国。
先の戦争でそれまで統治していた王はアウスによって討ち取られ新たな王を立て再建まで時間がかかる。
 ただ、何度戦争をしても公国が王国を支配することもなく、戦争自体どういった理由で行われているのか。知るものは限られている。



 地図に載る最後の地は『ロシェキト』と書かれた国なのか都市や村なのかすらなど全ての情報が定かでない場所。
大陸内の地図には今まで出てきた国や都市、村に加え数えきれないほどの少数部族や遊牧民も存在し、地図に載るのは大きな存在を示した場所であるということからこのロシェキトも何かしら特出したことをした場所であるということはわかるのだが、その功績も目立つような文献も何一つ見つからないナゾに包まれている。

 ある場所では『神の休息地』なんて呼ばれ方もしているようではあったが、真偽は全くの不明。
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