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4.敵国
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しおりを挟むアウスの言葉は過去への自戒、変えられなかった道への後悔も籠っていた。
一人は漆黒一人は深紅の髪を持ち、一人は深紅一人は漆黒の瞳を持つ二人にしか分からない心理戦。
「王妃殿が言っていた『お前は人間ではない』という怒りの言葉を俺も同じ様にお前に問おう。裁判が始まってから尋問しようと画策していたんだがな」
アウスの苦笑いしながら発した言葉に聖国の主も乾いた笑いを溢し、裁判が始まるまで待てないのは同じようで。と言葉を落とした。
時間が回り、裁判長や他の裁判員が続々と入廷し始めたが、一国の王族同士の喧嘩に口を挟めるほど立場が強いわけではない。
事情も含め把握しているノルマンが裁判長達の考えを見透かし「此処は私の責で収める故に口出し不要」と指示を出したことで、聖国の主とアウスの二人の言葉戦が始まることとなった。
「今日は《ジムグリ》《ヒバカリ》《カガシ》……どれで呼ばれたい?意見を尊重しよう」
「先ほど呼んでいただいたようにカガシで良いですし、それにもうリュドヴィクティーク殿は全て御存知でしょう?敢えて回りくどい方法など貴方らしくない」
ノルマンと会話し、マリアと言葉を交わしていたカガシの言葉のトーンがアウスの時だけは違うことを周りに居るものは感じていたがそれがまさか、カガシにとって弱者と判断しているものと同等または強者と判断しているものによる違いだと知るものはアウスくらいなものだった。
「そうか、回りくどい方法か。なら率直に訊こう。
カガシ、お前蛇の獣人だろ。両親のどちらかが毒に特化していた。だからラッキーカードなんてもん作れたんだろ」
「ほぅ、訊かれるのは獣人であるということまでかと思っていたので想定外ですが、そうですね、種族については認めましょう」
さもあっさり認めたカガシにセンガルは拍子抜けした。
聖国という国で崇めているランルは獣人を産み出したとさえ言われている犬。であれば、カガシが敢えて種族を隠している理由はない。
むしろ、そんな獣人なのだから強くて当たり前だと胸を張り言いふらすこともカガシの性格上やっていておかしくない。
なのに、偽名を使い人間として生きているのに問われれば隠すことをあっさり辞めるカガシがセンガルにとって理解が難しい存在であった。
「それまで隠していたのに訊かれたらあっさり答えるのね」
「帝国の主殿は、聖国では獣人の主であるランルが神であるにも関わらず種族を隠すのがわからない。って顔をしてますね」
お前の考えなど見え見えだと言わんばかりにセンガルの疑問をはっきり言い当てたカガシは、アウスの質問にあったラッキーカードからまるで話を遠ざけるように身の上話を始めた。
聖国において獣人が強者である、という思想があったのは事実ではあった。
が、前王国国王デクドーの若き頃の指示により元々水面下で行われていた獣人奴隷化が堂々と地上にて開始されたことで、思想は一変した。
聖国では獣人は『ランルの名を汚す』と嫌悪され、虐げられ、王国の奴隷達と並ぶかそれ以上の仕打ちを奴隷の紋無しで受けることになった。
カガシの母は、王国で奴隷の紋を付けられつつも運良く逃げられた蛇の獣人、父は獣人の一族に産まれてはいたが先祖返りでほぼ人間に近い蛇の獣人であった。
父が母に手を出した理由など、言わずも伝わるだろうと説明を省いたがその場にいるもので奴隷がいる世界を見てきたものには確かに伝わり説明は要らなかった。
カガシがアルビノとして産まれた時、母は聖国で目立つ見た目などすぐに目をつけられ短命となると、自らの血をカガシにかけ続けた。
お陰で短命になったのは母の方であったが、カガシの髪はまるで母の呪いのように鮮やかな赤となった。
聖国には十五になった男は、強者と弱者に分類するために闘わせる風習がある。
弱者には死を、とまさしく命がけの闘いであった。
カガシは母の亡き後一部の優しき獣人族の者達のお陰で命を繋ぎ続けてきたが、昨今聖国にある獣人族への目を見てきたからこそ、人間として生きることを決め闘いも身一つで勝ち上がった。
「十七の時に前聖国の長を潰しこの座に就きましたが、私を人間だと思うものの方が多いですし、元老会の者達はまだ思考が古くて、隠していないと突っ込まれてしまうんですよ」
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