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3.裁判
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しおりを挟む王国の裁判期間中、帝国公国では反乱等の予防策とし護衛は最低限のシックスのみ一部護衛のみと異例の少なさで迎えることとなっていた。
シックスも全員が来たわけではなく公国内で指揮系統を取る為に二人は残ると決まっていたため選抜方法は古典的なやり方でじゃんけんと相成った。
見事勝ち抜いたユルとネスタは、必ずお土産買ってきてねと泣くキディ、ユルさんなら安心だと気持ちを即座に入れ替えたシザーに安心しつつ王国へと来たがまさか遠隔かつ絶望的な裁判を目の当たりにしてはこれからの動きも多少の鈍りを見せる。
『発生方法が明確でない毒への対処』などどんな一流のヒットマンやらからしてもお手上げの難題。
王宮へと戻り、各自用意された広々とした空間へと足を戻せばアウスはすぐに紙とペンを用意し、ユルとネスタを紙を広げたテーブルの前へと召集した。
そこで説明と詳細を書き記したアウスの説明に、途方もない疎外感と違和感を覚えた二人は「何故そう言いきれるのか」と反論を見せる場面もあったが、アウスは決して理解の追い付かないものを棄てずにわかるまで説明をした。
既にわかっている毒の正体、対処法、発生原因……そしてこれから起こり得る最悪の想定。
全てを聞いた後にユルの中では懸念点が生まれてどうにも異物感が否めない。
「………御当主のその一連がもしも一言一句違わず起こり得たとしたら、犠牲が生まれることになります」
「既にノルマンやセンガルとは話はついている。後は……彼女を本当は巻き込みたくないのだが」
龍人の番とは、見聞きし得ていた情報とは随分と異なる部分も多いようだ。
ユルやネスタは人であるがためにその苦労を知ることは不可能で、本能的な話も半信半疑ではあった。
「……御当主って女が絡むとどうなんだろうなぁって昔はよくキディ達と賭け事のようなことをしてましたけど、そんなに怯えるなら公国に閉じ込めて逃げ出さんようにしてしまえばいいじゃないですか」
ネスタがアウスの言葉を聞いて、呆れたような口調で吐き出す言葉はアウスにとっては地雷に近しいほどあまり無造作に触れられたくない部分ではあった。
ズケズケと容赦を知らずに言葉を口から出せるネスタだったからこそ言えた言葉だったと思う。
「……閉じ込めたら、その後はどうなる。人間以下の証明でもさせるのか。
閉じ込めて安心と安全を確保し、彼女を守れるというのなら俺はそれを躊躇うことはないだろうが、彼女の人権を脅かすのは……奴隷と何が違う」
ネスタはアウスからの返答に、だからこそ言葉を交わして互いが納得する形に納めるんですよ。御当主はなんにもしないから不安なんですよ、だから行ってきてください。明日何があるかわからないんですから。と言葉を矢継ぎ早に言いながらアウスの背中を押して外に押し出す。
本来、従者が主の背中を押して部屋から追い出すなんて不敬以外の何者でもないが、言葉で納得させられては追い出された部屋に戻るのではなく、明日話し合えるかわからない彼女の元へと向かうしかなかった。
ラウリーに用意された部屋はアウスの用意された部屋から少しだけ離れていた。
男女である程度わけようかと用意したものではあった。
まさか、向かうまでの間にこんなにも心拍数は上がり戦争に居る時よりも興奮度が高くなるのはアウスにとっても誤算だった。
扉の前に来た時には、あまりにも心拍数が上がり緊張状態に入った為鱗がパキパキと音を立てて現れていた。
意を決してコンコンッと扉を叩いたが、開くまでのたった一、二分がとても長く感じて嫌な汗すら流れていくようだった。
最初に扉を開けたのは王宮から遣わされたラウリー担当のメイドで、アウスの姿を見るなり怯えたように「どうしたのでしょうか」と声を震わせながら問い、ラウリー嬢に用があると龍人の変化した声がするなり、涙目になりながらすぐにお呼びしますので、どうか…と駆け足で逃げるように奥に消えてしまった。
落ち着きたいのに、落ち着けなくてどうして良いのかわからなくなる。
こんなにぐちゃぐちゃな感情は生まれてから初めてで対処のしょうがない。
ゆっくりと開く扉からラウリーがひょこっと顔を覗かせた時アウスの心の中にあった気持ちが溢れるのを感じた。
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