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3.裁判
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しおりを挟む二人の件の検死はその後やって来た王国の警備達に任せ、明日まだ終わらない裁判への準備をすることへと移行した頃には日は落ち始め、空は茜色に染まっていた。
裁判中は公平を期すため、王宮内に留まってもらっていたラウリー、アウス、センガルと共にノルマンとマリアも帰城した。
ある程度落ち着いた頃、ノルマンとマリアは二人の使う寝室で身体を休めようと準備していた。
マリアは現場をまじまじとは見れなかった故にノルマンにあれやこれやと訊いたがノルマンから返ってくる返事はどれも曖昧であった。
「…本裁判において私も関係者なの。知らなければ繋がることが出来ない事実もあると思うわ、だからノルマン教えて」
「教えられることは何も無いよ、何も情報がないのだから」
「それは国王の立場をもって言っているの?私は王女という立場をもって言ってるの。隠さないで」
「知らないことは教えようがないよ」
ノルマンの過保護さは出会ってからずっと知っていたことではあったが、裁判が始まる数ヵ月ほど前から拍車が掛かったようにひどくなっている一方。
何が彼をそうさせているのか、わからないからこそマリアはもどかしくて仕方がなかった。
もういいわ、と部屋を飛び出すように出れば妙なタイミングでセンガルと顔を合わせる。
どうしたの夫婦喧嘩?と軽く冗談めいた言葉を言ったセンガルもマリアのむすっとした表情が変わらないことに本当に夫婦喧嘩なの、と呆気にとられるしかなかった。
「………隠されるのは好きじゃないわ」
マリアとセンガルは庭園のベンチに腰掛けながら、星輝く空の下で話をする。
最初は全部言うつもりなんてマリアには無くて、軽い世間話からいつの間にかヒートアップした愚痴は止まらずにノルマンが隠す何かについても話題の一つに上がった。
センガルはそれまでは、それはノルマンが悪いね、話し合いが必要だねと他人事だからこその穏やかさを持っていたが隠し事に関してだけは他人事ではいられなかった。
「……ねぇマリア。私もね、夫たちに何も言えない……ううん、言えなかったことは沢山あるわ。前回帰の記憶を有しているなんてそもそも夢のような話ではあるし、言ったから変わる未来ではないと知っていて命が奪われる失われると伝えるのはとても酷なことよ。
アウスもラウリー嬢が前回帰で奴隷だったことを伝えなければ、どうして番だとわかったのか、という質問に答えられないことに悩んでいたわ」
ノルマンとマリアは二人揃って前回帰の記憶を有しているから、ノルマンは出来る限りの貴女に起こり背負わなければならない重荷を減らそうとしているのかもしれないわね。とセンガルは悲しそうに伝えたことでマリアはそれまでの愚痴は幼子がする地団駄にそう代わりないことを感じた。
センガルの言葉を聞いたマリアは、彼女と別れた後にもずっとその言葉の重さを感じてはため息が出た。
慌ただしい中でふと忘れることがあった。まるで全員が記憶を有して動いているとさえ錯覚することもあった。
けれど、確かに。彼ら彼女らは物語の延長線で決められた動きをしていただけに過ぎない。
大きく物語が変わり、本来の筋で出ることはなかった聖国やらの大陸に名を持つ小国が出てきて、いつ軌道修正が入るかと怯えていた当初は今や、どうやって卒業パーティーまで乗り越えるかと視点が変わって油断どころの騒ぎではない。
「……ウィリエールが断罪されることで、未来がどう変わるのかも何もわからないのよね」
俯きながら寝室へと向かえば、先に寝ていれば良いものを廊下に立ち扉に背を預けるノルマンの姿を見つける。彼はいつだってマリアの味方であり続ける。それはもう病のように。
だからこそ、揺らがぬ内に伝えなければならなかった。
「ノルマン、私を守ろうとしてくれていること心から感謝しているわ。いつも必ず味方で、反することは貴方は絶対にしないでいてくれた。だから私は前を向けた。
でもね、私は守られているだけは嫌なの。これは王女という立場ではなく、私個人として。
贖罪は終わっていないの」
マリアはきっと忘れない。ノルマンの悲しくも優しいあの表情を。
ノルマンは事件の詳細をマリアに伝える覚悟をし、寝室へと共に入った。
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