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3.裁判
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しおりを挟む裁判の中断は至極真っ当なものだった。
傍聴席の者たちを王直々に箝口令を敷き帰せば、ラウリー、マリアは控え室に。アウス、ノルマンそしてセンガルに裁判長含む裁判官たちで現場の確認と保全に回る。
「……証言を取るつもりが、まさか二人とも喪う結果になるなんて想定外だわ、いや……違うわね、想定していた事態の中で最も起きて欲しくなかったことだわ」
「……毒は間違いなくラッキーカードと同じ、確実に壊死の発現場所は内臓だな。見えるところは把握できているタイミングだった」
遺体はどれもテストルの毒と同様に一ヶ所から時間をかけて、というもので以前にアウスの元に届いたデフィーネの一件とあまりにも酷似していた。
「……だが、彼女達は『進行に影響がない』のだな」
多くの者が動き回り、現場の調査と保全で立ち止まることがない空間でアウスが放った言葉は、センガルとノルマンの心を小さく抉った。
知ってしまった。恐怖すらあったにも関わらず、裁判前に行った『ストーリー進行と主要人物のルートから外れた行動』の検証。
小さなズレなどは周りの自動修正が入り、ストーリーの変更などは新たなキャラクターやハプニングである程度は修正が入る。ならば主要とされる者達が再起不能に陥った場合はどうなるのか。
『巻き戻る』
文字通りだった。
記憶を有して巻き戻れたから良いものの、無ければ一生そのループで苦しむこともあったかもしれない。
試すのならば私が、とセンガルが行った自らの命を絶つ行動は行った瞬間に行動を移す前に時間が戻される。
なぜ、物語上どこかでリタイアした者達が生きて居られるのか、という疑問はアウスが記憶を取り戻した時に居た戦場で見た物語上の時間やタイミングがあるからだと気づいた時、自分達の世界を恨まざるをえなかった。
「……私の命が尽きるタイミングまでは物語に影響が及ぶと判断されたというわけね。ご丁寧に絶望を乗せてくれてるわ」
「……であれば、その日を過ぎてからもう一度やってみればいい。今度こそ自由になれるかも知れないぞ」
…
マリアやラウリーはノルマン、アウスの尽力で事の次第を見ては居なかったが騒然となった場である程度を察することは出来た。
すぐに避難をと別の部屋に隔離されるように分けられても文句の一つも出なかった。
「……アウスがどれだけ貴女に何かを伝えているかはわからないけれど、大丈夫よ。私、安心してしまったの。ノルマンが私の目を手で覆う瞬間に凄く焦っているアウスの姿を初めて見たの。ふふ、笑う場面ではないのにね」
場を落ち着かせる為か、マリアはラウリーに見た今までで見たことのなかった、アウスとしては見せることの無いように意識していた弱みを見たという話をした。
ラウリーは少し照れくさそうに視線を迷わせ、マリアに自身の中の悩みを伝えた。
『この一件が落着したら私はウィリエール殿下との婚約は破棄されるのだと思っています。幼い頃から殿下の婚約者として、聖女として生きることを決められてきた人生です。
リュドヴィクティーク様の言葉や関わる内に私の中に情が生まれたことは否めません。もっと彼を知りたい気持ちがあります。ですが、選択が出来ないのです』
聖女として王族と婚約し、王国へ貢献することを存在理由とされてきた当然の結果。
ラウリーは自分に決定権があることを、やっと公国に行き休暇を取っている間に自覚できたほど。『やりたいことをやっていい』アウスの言葉は公国に来たばかりのラウリーには難しい言葉であった。
ただ、私にも選ぶ権利があって選択が出来ると理解できたとしても人生の関わる大きな決断をすることは未知の世界。
アウスを選ぶことは、王国を捨て王国にいる家族をも裏切る結果になるのではないかと恐ろしくもある。
そんなラウリーにマリアは優しく言葉をかけた。
「私ね、ノルマンと結婚をすると決めてから多くの人に反対されたの。身分が違いすぎる、見合わないと。けれど、私はノルマンを愛していたから彼に愛されている自信があったから、異例の結婚でも決行できたのよ」
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