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3.裁判
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しおりを挟む王国内でも有数の広さの講堂で行われた異例の裁判は、関係者の多さから既存の裁判所では対応し切れないと裁判所の者に泣きつかれたことで急遽ノルマンが用意したもので、講堂の構造上、王族を含む傍聴者は二階の席が用意された。
一階、簡易的に設置された舞台を除き多くは最初の前座として用意された大勢の『傍観者』とその親が埋め尽くした。
裁判の日程は、前座がとても時間を使った為に最悪の場合と予定されていた三日間に及ぶことがミルワームが出てくるほんの少し前に決まったばかり。
アウスの意向でラウリーは二日目以降の登壇となった。
初日に予定していた傍観者ならびにミルワーム、そして予定では来るはずだったもう一人の聖女に関してはラウリーに危害を与える可能性と、ラウリーが与えられた危害のフラッシュバックの可能性を鑑みた結果であったが、最初の大騒ぎを見たノルマンはアウスの想定は正しかったと判断したが、何故最終日ではなく二日目からにしたのか少しだけ拭えない疑問を残して裁判は開始された。
前日、ミルワームは『実行犯ではあれど指揮者ではない』と判断された。最終的な判決は最終日に全員纏めて行われることになったが、二日目の登壇者が一筋縄ではいかないことを最初から理解できていた。
裁判長は名前を、ともう一人の聖女に問うた。
もう一人の聖女は白銀の髪を靡かせ、黒く光すら飲み込む様な黒い瞳でまっすぐに前を向き、唇に塗った真っ赤なリップはまるで私は安くないと姿で語っているようだった。
「……マーガレット・ネウハスです」
貴族の一礼をしたマーガレットと名乗ったもう一人の聖女に食いかかるように開始の狼煙を上げたのはアウスだった。
アウスは自己紹介の瞬間「私が調べた結果とは違うようなのですが」と声を上げ、裁判長が発言を認められると優しく問いかけるようにアウスは質問をした。
「ネウハス家に娘は居ないと調べがついており、貴女がネウハス家の者では無いとなると…偽名を使い学院に入学していたということになる。本名を教えてくれませんか」
アウスの言葉に少しだけ視点が動き、言葉が濁ったことを確認したノルマンはどういうことだと敢えてアウスを問い質した。勘の鋭いものであればすぐにこの質疑応答が茶番劇であることを悟る。
「学院は王宮も関与している部分だぞ、偽名を使えばどうなるかくらいわかるはずだが」
「ノルマンは覚えていないかも知れないが、『王の言葉』よりも『神の言葉』の方が強くなることがある」
「………神だと」
薄っぺらい演技の表面上を見せられている裁判の者たちの気持ちは計り知れない。ただ、その中で背中に冷や汗をかきながら自分の命運を願うしかないものは……
「……と、いうことで。証人尋問を要求します」
アウスの切り替えは恐怖にすら感じるものが居ただろう。ノルマンもその場の状態、空気を把握したのか一切喋らなくなり、アウスもノルマンとの掛け合いで見せた表情は何処にもない。
呼ばれた証人を見た瞬間のマーガレットは全てを既に調べ上げられたのだと絶望を露にし、瞳を閉じた。
ただ、証人を見たアウスは想定した人物ではなかったことに受け入れる体勢ではなく敵対心を向けた。
「俺が呼んだやつはお前じゃない」と矢継ぎ早に言えば、証人は「あの方は王国の周りにわざと植えられた花がお嫌いな為…」と業務的に頭を下げた。
センガルはアウスに耳打ちするように「呼んだのはカガシの方よね」と問えば「あぁ」とアウスは少し悔しそうに答え黙ることを選択した。
裁判長はそのすべての流れを考慮しつつも、証人に名前をと言い証人も改めて向き直し従う動きを見せた。
「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。私、ランブル聖国、尊き主に仕えておりますが一人。モルティシカ・クフェードと申します。本日、証人として我らが主が呼ばれましたが、諸事情により私が代理として参りました」
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