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2.再開期
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しおりを挟む帝国内の工場殲滅が終了した。センガルとしても行った行動はとても心苦しい中でもやることで前に進める大きな進捗と言えた。
ノルマンも音に一切の揺らぎはないものの、協力に感謝すると言葉だけは言っていた。事務的にそう、とだけ返してセンガルの夫たちも待つ家へと向かう。
「……フェイ、私戻ったら準備をして公国に向かうわ。供は要らない。想定している事態が予想よりも酷くないことを願っているわ」
リュドヴィクティークという存在がランブル聖国にどのような影響をもって、アウスをまるで誘き寄せるかのように帝国や王国に抗う行為が果たしてこれからの道をどう左右するのか。
時間を巻き戻した。記憶を保持した状態下で前回帰まで争っていた関係を修復しながらここまで来た。何もかもが早まって、イレギュラーばかり起きそれまで一切の接点がなかった聖国まで現れた。
イレギュラーに向かうアウスが戻ってくるまでこの物語の主格であろう『リリアリーティ』の生まれ変わりである『ラウリー・デュ・カルデラ・エトワール』をなんとしても守らなければならない。
ノルマンやマリアは自国の対応に追われている。更に言えば公国に足繁く通えば変に勘づかれて事が厄介になるのは目に見える。
センガルであれば、不定期にアウスをからかう名目で会いにそれまでも行っていた。突然不意を突いて会いに行ったとて不審がられないかつ、ある程度の人間が事の詳細を知っているいないを除いてもラウリーに『会ったこと』を偶然と装えるのもセンガルが適任でしかない。
「………メフィ、俺ねメフィが言えないことがあることも、あの日取り乱して起きた時からずっとなにかを背負い込んでいることも、それを俺たち『夫』が知ってもなにもしてあげられないことを理解しているつもりだよ。
それを決して責め立てたりしないって皆で決めてた。でもね、もしメフィが自己犠牲で何かを守ろうとしているのなら……俺達も後を追うことだけは知っていて」
エルビス、ユーステッド、フェイ、ジェイズ、ダリオオ、ルーマラス、ハベル。全員の総意である言葉。
過去を説明したとて理解されないと、何も言わず我が道を行った当然の結果。
今のセンガルにとって夫達を守るための行動でもしもの事が起きた時に『俺達は後を追う』と言われることはこれからの動きを封じる枷となるには十分すぎた。
わかっている、今ここで「わかっているよ」「ちゃんと気を付けるから」と背を向けたとて彼ら夫達には何の説明にも慰めにすらならないことを。
わかっている、それでもセンガルは未来を変えるために彼らに本来の未来を告げる気は無いことを。
「……ごめんね、メフィの枷にならないようにしたかったんだけど。奴隷として生きてきてリュドヴィクティーク様に救われて自由となっても玩具として生きてきた俺たちに人間としての道をくれたのは、他の誰でもないメフィだったから。
俺達はメフィを応援しているし、全てを肯定したいよ。それでもね、まだ俺達は奴隷なんだよ」
言えればどれほど幸せだっただろうか。
「…………フェイ。あなたもエルビスもジェイズもユーステッドもルーマラスもバベルもダリオだって全員もう奴隷ではないのよ。自分の意志で生きることを選べる。
私とあなた達に身体の繋がりはない、そういう関係だとしても心は繋がっているし、情だって勿論湧くわ。
私のやりたいことにあなた達を巻き込めない。大切だから、帝国に戻ったら皆にちゃんと伝えるわ」
どれだけあなた達を大切に思っているのか。巻き込めば敵が『神』だった場合、私は喪うことを何よりも恐れているのだと。
奴隷だった頃鎖で繋がり玩具として扱われていたのかを知っていたから、リュドヴィクティーク夫妻は諦めるべきだと言っても諦められなかった。
もし卒業パーティの時期を超えて全員が生きていたら、やりたいと思うことがあるのだと。
帝国に戻り、仕事を投げ捨ててセンガルの元に駆けてきた夫達に伝えた言葉はどう映ったのか。センガルには……
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