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2.再開期
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しおりを挟むラウリーが初めて見る公国の姿は本で読むのとは随分と雰囲気が違った。
もっと獣人が獣人らしく姿を見せているのかとそう思っていたが、多くという言葉では難しいほどに殆どの獣人や龍人が人間の姿で生活を営んでいた。
アウスはラウリーの目線である程度の疑問には到達した。
興味やらのポジティブだけでない疑問などは推測が手に取りやすい。
「……公国、帝国は王国から逃げ出した奴隷達が半数以上を占め建国したので国民の多くが奴隷または奴隷の二世達です。『獣人でなければ』と追い詰めてしまう者は多い。
帝国では皇帝であるセンガルも王国暮らしの時は隠していたけれど今では獣人らしくしていますし、本来の姿でいる者が多いですが、公国では社会復帰を優先した為に人間の姿の者が多いんです」
上手く言えないと、敬語で話すアウスにラウリーは既視感を覚えたがアウスとはまだ会って数日もない関係。
既視感があるはずがないと、ラウリーはこの感覚を否定した。
公国ではアウスは絶対的な存在ようで、馬車の紋章を見る度に国民の多くが足を止め頭を下げた。
それは公国の主だから頭を下げなければ、と半ば強制的なものというわけではないようで馬車の紋章も小さく探して見なければ他のデザインだと見間違える程。
それなのにも関わらず頭を下げ行く人々が多いこともラウリーにしてみれば新鮮な気持ちであった。
小さい子の温かく楽しげな声はラウリーに届いて心を満たす。
王国で過ごしていた時間、悲しくはないけれど大人はきらびやかな衣装に身をまとい子供も大人の偏見故の思想を植え込まれてきた。ラウリーにしても『聖女なのだから出来て当然』と多くを抑圧されてきた。反動は未だに無いが息が詰まると感じたことは何度も…数えきれぬほどあった。
小さい獣人の子らには奴隷という言葉すら伝わってはいけない。アウスの思想には共感はあれど多くは現実的でないと否定的ではあった。
公国建国より十数年。願っていた通り子供達が楽しそうに笑える国になったことを馬車から客観的に見て思う。
「…公主邸でエトワール嬢に二人のメイドをつけています。到着し次第紹介させて頂きますが、一人はエトワール嬢と意志疎通が取れます。もう一人は裏切らない、嘘をつかないという点で選びました。何か不都合等があればいつでも言ってください。
此処を息苦しい場所にはしないつもりです」
ラウリーには理解できかねる状態だった。
アウスが王国で息苦しい思いをしてきたとは知らない、知る由もない。
それなのにまるでお見通しといわんばかりに心を見透かし求めていた言葉に近い言葉をかけてくれる。
『ありがとうございます』と胸のつかえを取るように、ラウリーはアウスに書いたメモを渡した。
「お帰りなさいませ、御当主様」
リュドヴィクティーク邸は、王国貴族の家と同等。
ラウリーからしたら国を治める者の住む家の定義が王族であった為にひどく衝撃的でショックを受けた。
見栄を張ることで権威を保てるものだと、頭のどこかで偏見にまみれていたからだろう。
「……エトワール嬢。王国の王宮に比べれば見劣りするだろうが、此処にはここの良さがあると思っている。ゆっくりでいい、少しずつ慣れてくれると嬉しい」
アウスの優しい声と表情に迎えに出てきていたデフィーネやユル、キディは目を点にして驚いた。
ハッとしたように切り替えたデフィーネはすぐに、お客人のお部屋にご案内を。と迎え入れた。
ラウリーは『宜しくお願い致します』とメモ用紙を胸の位置に持ち上げ見せると多少の驚きとアウスが選別したラウリーに付くメイド達が選ばれた理由を知った。
ラウリーに頭を下げ公主不在時に溜まった仕事をすると離れたアウスを背にデフィーネの案内にラウリーは着いていった。
片腕の無いメイド。ラウリーからしたらそれすらも心を握られるようなギュッとする感覚を覚えた。ただ、奴隷の頃に失ったのですかなどと不謹慎な話を出来るほど肝も強くない。少し下を向いて着いていくしか出来なかった。
「…お部屋には、ラムルとエピチカという二人のメイドが居ます。どちらかが失礼を働くようなことがあれば守ろうとせずどうかお伝えください」
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