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2.再開期
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しおりを挟むルドゥムーンに選択肢など無いに等しかった。
幸せになって欲しいと願った子がまた苦しめられたというのにノコノコと自分は幸福を感じて良いものかと悩みはしたものの、会いたいという気持ちだけは偽れなかった。
会える機会を自らの手で壊すなんて、愚者になった気分だった。
三大柱と呼ばれる存在にしては情けない姿を見せたと後々になってみれば思うことはたくさんある。
駆け出した足を止められる存在はいないのだ。
アウスはルドゥムーンの姿を見て強い衝撃を受けたのと同時にギルティアの姿を思い返し複雑な心境になった。
「………龍の子が挨拶とは珍しいが素直に会わせてくれたこと感謝する。傷の調子は大丈夫だろうか」
ラウリーと目を合わせる同級生程度の年齢であろう男は、意識空間で会った『彼』にそっくりで。
年齢以外の特徴は合っているのに、意識空間にいた幸せを願ってくれた彼よりか遥かに若い。
『………私たちは何処かで御会いしたことがありますか』
ラウリーの脳内で問い掛けた質問をアウスは知ることが出来ない。そういった能力の開花を望んだことは今まで無かったが無言で意志疎通を取っている姿を見る度に自分も理解できたら良かったのに、とは思ってしまう。
「会ったこと、か……あるよ。君を幸せにしたいと願う通りすがりの存在だけどね。
ただ幸せにしたいと願っても私では役不足でね。そこの龍の子に託したんだ。君が幸せになるために必要な足掻きを担って貰っている。
だから、安心して幸せにおなり。私はずっと此処で君が幸せになったと報告しに来るまで待っているから」
ルドゥムーンは自らがリリアリーティの父親だとは名乗らなかった。というよりかは意識空間で会ったことも明言せずただある程度の匂わせだけで済ませたことにアウスは理解が追い付かなかった。
せっかく会えて話せる機会を与えてもルドゥムーンは敢えてあやふやにしてしまうのか。解せないからこそ疑問でならなかったし問い詰めたい気持ちもあった。
けれどやはり嬉しいのだろう、アウスが知るルドゥムーンの顔ではなく柔らかく穏やかな表情にとやかくは言えそうに無かった。
「……幸せになるための一歩として龍の子に我儘を一つでも良いから言ってみてくれ。龍の子は嫌な顔をせずきっと叶えてくれる。
最初はその我儘が他人の為だとしても、いつかは他人の為ではなく自分の為に我儘を言える土台になる。
人の子は我儘で良いのだぞ。可愛い子よ」
ルドゥムーンはラウリーにそう助言すると、少しだけ残念そうに音がする、もう出発したいから二人を探す声もある。と言った。短い時間とは言えとても幸せそうな顔をしたルドゥムーンにアウスはどうしても言いたいことを最後にまるで喧嘩腰で吐き捨てる言葉のように言った。
「必ず幸せにして、第二の実家に帰る時間を作るから楽しみにしておいてくれ」
ルドゥムーンはアウスの言葉にやれるもんならやってみろと言わんばかりの「あぁ、楽しみにしている」という言葉を返し、表面上は穏やかに事は収まった。
動き出した馬車に乗り、何処か嬉しそうな顔をしているラウリーにアウスは理由を訊きたかった。
アウスは意識空間でラウリーがルドゥムーンと会っていることを知ることは無いからである。
故にルドゥムーンが自身をルドゥムーンだと名乗ってもいないのに聖女として神聖な存在がわかるのかと思ってしまったから。
『我儘を言ったら龍の子はきっと叶えてくれる』
ラウリーからしたら両親でさえ難しい何かをねだったり、自分の意見を押し通すことはなかった人生で突然してみようとは中々ならない。
けれど意識空間の中でルドゥムーンが願ったことを知っていて、悪い人の悪の意見ではないことも把握できている。
ならばやってみたら何かが変われるような、そんな確信は無いがどことなく自信があった。
公主邸宅までの道が残り僅かとなった最後の集落で、ラウリーは古ぼけた家を見た途端嫌な汗が伝い、アウスの袖を強く掴み止まるように訴えかけた。
アウスはその意図を汲み取り馬車を停車させると、ラウリーと共に嫌な感覚を覚えた家へと向かうこととした。
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