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2.再開期
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しおりを挟むラウリーに当分の間公国にて静療するようにと話が届いたのは、話し合いが終わってから三十分程が経ちオズモンドとランゼルが揃ってやって来た頃であった。
「何を勝手に」と我儘を言える立場でないことはラウリーも理解できた。
ただ突然隣国に移れと言われて素直にはいと頭を下げるわけにもいかなかった。というよりかは頭を下げられなかった。
意識空間で会った人が公国の主だと信じている。
龍人の特徴を有した獣人が居ないわけではないのかもしれない、ラウリーが知らないだけでもしかしたら。
本当に意識空間で出会った男の人が公国の主だとするならば自分の身柄を保護してくれるというのは信頼出来ることなのかも知れない。
………けれど、それでも。
『そのお話は公国の方には許諾を貰っているのですか』
ラウリーは病室にあるメモ用紙とペンを使いオズモンドに向けて書き記すとオズモンドは国王陛下も同席の場で許諾を頂いたよ。と優しく告げた。
「……公国という慣れない土地に突然送ってしまうのは家族として申し訳無いと思うのだが、身の安全を最優先にしたんだ。勝手で本当に、申し訳ない」
ランゼルはひどく落ち込んだ声色でラウリーに頭を下げると、明日迎えが来るから準備を頼むよ。と小さい子に言い聞かせるようにして目を逸らした。
準備と言っても数着の服と二冊の本だけで大きめのバッグ一つに纏め、荷を扉の近くに置くだけ。
あまり眠れずに日が昇り、オズモンドが用意は出来たかと訊いてきたときには外は元気な音が響き渡っていた。
フワッとラウリーの耳元をなにかが微かに揺らした。ラウリーはゆっくり振り替えると窓の方に綿毛のようなフワフワと浮かぶものが見えた。
『……妖精さん、こんなところにまで来たの』
ラウリーが脳内で優しく問い掛けると、綿毛のようなフワフワと浮かぶものは揺れながらラウリーに言葉を伝える。
脳内に直接語りかけるような会話は周りに居るものたちと世界を隔離する。
ランゼルは何かと話をしているのか優しい表情で窓に向かうラウリーを見ながら、少しだけ寂しい表情になる。
妹が生まれた時の喜びは計り知れないものだろう。歳が離れていればなおのこと。
シャルロットはランゼルを生んでから流行り病で身体を崩し、ラウリーが産まれるまで時間が空いた。ランゼルが六歳の時に産まれたラウリーの小さな手を今でもランゼルは覚えている。
産まれてすぐ、エトワール家で産まれることのない蒼い瞳を持っていたことで騒ぎとなり気づけば聖堂で祝福を受け、神からの二つ目の名前を貰った妹をランゼルは少しだけ腹立たしくも感じていた。
普通に産まれてくれていれば、そう思うこと、思ったことはどうしてもある。
今だって、ランゼルの本音は聖女なんか辞められるのならば辞めて平穏無事な生活をしてくれ。と心から願っている。
「……聖女である前に妹なのに、己が手で守れないなんて」
悔しさを吐き出すように呟いた言葉をオズモンドはゆっくりとランゼルの肩を叩いて告げた。
「我々に出来ることをするしかないんだ」
まるでオズモンドは自分にも言い聞かせるようにして言った言葉をランゼルも飲み込むように心にしまった。
公国からの迎えは、アウスとネスタ、そしてシザー。
シザーが中まで入り挨拶を終えると荷物を預かり案内も兼ねて前を歩く。
ラウリーがアウスと、意識空間以外で今回帰初めて顔を合わせた瞬間でもあった。
アウスは自己紹介をし、馬車で移動することを告げエスコートをしようと手を出した。
『お世話になります、ラウリー・デュ・カルデラ・エトワール・リリアリーティと申します。公国の主であられるリュドヴィクティーク様にご挨拶申し上げます』
病室のメモ用紙にペンで書かれた文章は前日に書かれたもの。
それでも初めて、ラウリーから貰えた物。名乗って貰うこと、それら全てがアウスの心を埋めるには充分だった。
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