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しおりを挟む全ての流れをその場の全員が把握した後、順次解散で。とノルマンは立ち上がり外へと出た。その背を追うようにオズモンドとランゼルが頭をアウスとマリアに下げて外へと向かっていった。
マリアはとても申し訳なさそうにアウスと人一人分の空間を空け前に立ち、ラウリーの肩に見られた痣の話をした。
龍の紋章に見えたのでアウスとの繋がりがあると思ったのだがいつからそんな干渉できる能力になったのかと。
アウスはその言葉を理解した時全身の血の気が引き、シザーにセンガルと連絡を取れるようにと指示を出した。
「……マリア、見た痣の形を事細かに覚えている範囲で書き出してくれ。ノルマンにも伝えておいてくれないか。マリアが見た痣はきっと………」
…
エルメの背に乗って公国へと帰還したユルは、王国でお土産というお土産を買うことが出来なかったと嘆くキディを再度引き摺って公主邸へと戻った。
今回の件、例え上の立場であっても始末書を書かないと業務の一部を王国で過ごしていた理由がわからず無断休憩していた税金泥棒になりかねないとエルメは笑ったがユルもキディもその気持ちを理解できなかったことでなんとも言えぬ空気となり早々に解散になった。
ユルは公国を回りながら公主邸へと向かったが、王国とはやはり空気から何からなにまでが違った。
ユルの記憶の中で王国には良い思い出が無い。
学院の中でみた世界がユルの中の学生の時からみてきた世界で、無作為に生み出される悪意に飲み込まれそれを人間の本能が肯定し正当化する。
当てはまらない者を『負け』と決めつけ刃を突き立てる。
公国には人間以外が多い。
龍人、獣人、時には幻獣種と呼ばれる通常の獣人とは異なる能力を持った獣人もいる。
帝国にも獣人と龍人はいるのだが、公国の思想とは少しずつ違う。
更にいえば奴隷の紋を持つ者が多い。
背中や腰の辺りに刻印されることがほとんどだが、稀に刻印する側の趣向で痛みが強い場所に捺された者や完全にその部位を壊す目的で捺される者もいた。
公国では悪意がどうなるかを知っているものが多いからこそ、補うことを最もよく考えている。
奴隷時代、失った腕や足を決して笑わない。痛みがわかるからこそ支え合おうと踠き続け今の穏やかな国が出来ているとユルは感じている。
もちろん、そんな優しいもの達だけではないことも確かで。
定期的に現れる王国さえなければ俺達が奴隷になることはなかったと、王国へと向かおうとしたり酒に溺れて強くなった気になってしまった者をエルメ達公安が潰して回っている。
公国に残ると決めてくれた全ての国民の為にアウスは身を粉にして闘いながら公主を勤め続けている。
「…この景色が変わると言われたらキディならどうする」
「なんすかぁ急に……俺は主様に従い身を尽くしますよ。それで今までの恩を返せるのなら悪事だってなんだって手を染めてみせます」
キディもユルもアウスに恩がある。その恩はありがとうの一言では尽くせない。尽くしてはならないもので、シザーと同様にアウスという圧倒的な存在に心酔しているんだろう。
公主邸はノバの一件で騒がしかったのが落ち着き、各々が自分に合ったパートに振り分け、再分割がされたことで潤滑な作業と見違えた効率の向上を出していた。
結果として出せるものなら、と後にデフィーネは嬉しそうにしていたそうだ。
片腕を失ったとは思えないスピードで今までの仕事を当たり前のようにこなしていくデフィーネの後ろ姿をユルは眺めて感心した。
世の中には仕事をしていないと息も出来ないような人間がいるのだと。
小さく息が鳴るのを感じたデフィーネに気づかれたユルはアウスが王宮で言っていたことをデフィーネに伝えた。
意図がすぐには取れなかったデフィーネは頭を傾げたが、とりあえず言われたことは行動させてもらうわといそいそと動きを再開した。
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