76 / 116
2.再開期
28
しおりを挟む全ての流れをその場の全員が把握した後、順次解散で。とノルマンは立ち上がり外へと出た。その背を追うようにオズモンドとランゼルが頭をアウスとマリアに下げて外へと向かっていった。
マリアはとても申し訳なさそうにアウスと人一人分の空間を空け前に立ち、ラウリーの肩に見られた痣の話をした。
龍の紋章に見えたのでアウスとの繋がりがあると思ったのだがいつからそんな干渉できる能力になったのかと。
アウスはその言葉を理解した時全身の血の気が引き、シザーにセンガルと連絡を取れるようにと指示を出した。
「……マリア、見た痣の形を事細かに覚えている範囲で書き出してくれ。ノルマンにも伝えておいてくれないか。マリアが見た痣はきっと………」
…
エルメの背に乗って公国へと帰還したユルは、王国でお土産というお土産を買うことが出来なかったと嘆くキディを再度引き摺って公主邸へと戻った。
今回の件、例え上の立場であっても始末書を書かないと業務の一部を王国で過ごしていた理由がわからず無断休憩していた税金泥棒になりかねないとエルメは笑ったがユルもキディもその気持ちを理解できなかったことでなんとも言えぬ空気となり早々に解散になった。
ユルは公国を回りながら公主邸へと向かったが、王国とはやはり空気から何からなにまでが違った。
ユルの記憶の中で王国には良い思い出が無い。
学院の中でみた世界がユルの中の学生の時からみてきた世界で、無作為に生み出される悪意に飲み込まれそれを人間の本能が肯定し正当化する。
当てはまらない者を『負け』と決めつけ刃を突き立てる。
公国には人間以外が多い。
龍人、獣人、時には幻獣種と呼ばれる通常の獣人とは異なる能力を持った獣人もいる。
帝国にも獣人と龍人はいるのだが、公国の思想とは少しずつ違う。
更にいえば奴隷の紋を持つ者が多い。
背中や腰の辺りに刻印されることがほとんどだが、稀に刻印する側の趣向で痛みが強い場所に捺された者や完全にその部位を壊す目的で捺される者もいた。
公国では悪意がどうなるかを知っているものが多いからこそ、補うことを最もよく考えている。
奴隷時代、失った腕や足を決して笑わない。痛みがわかるからこそ支え合おうと踠き続け今の穏やかな国が出来ているとユルは感じている。
もちろん、そんな優しいもの達だけではないことも確かで。
定期的に現れる王国さえなければ俺達が奴隷になることはなかったと、王国へと向かおうとしたり酒に溺れて強くなった気になってしまった者をエルメ達公安が潰して回っている。
公国に残ると決めてくれた全ての国民の為にアウスは身を粉にして闘いながら公主を勤め続けている。
「…この景色が変わると言われたらキディならどうする」
「なんすかぁ急に……俺は主様に従い身を尽くしますよ。それで今までの恩を返せるのなら悪事だってなんだって手を染めてみせます」
キディもユルもアウスに恩がある。その恩はありがとうの一言では尽くせない。尽くしてはならないもので、シザーと同様にアウスという圧倒的な存在に心酔しているんだろう。
公主邸はノバの一件で騒がしかったのが落ち着き、各々が自分に合ったパートに振り分け、再分割がされたことで潤滑な作業と見違えた効率の向上を出していた。
結果として出せるものなら、と後にデフィーネは嬉しそうにしていたそうだ。
片腕を失ったとは思えないスピードで今までの仕事を当たり前のようにこなしていくデフィーネの後ろ姿をユルは眺めて感心した。
世の中には仕事をしていないと息も出来ないような人間がいるのだと。
小さく息が鳴るのを感じたデフィーネに気づかれたユルはアウスが王宮で言っていたことをデフィーネに伝えた。
意図がすぐには取れなかったデフィーネは頭を傾げたが、とりあえず言われたことは行動させてもらうわといそいそと動きを再開した。
2
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説


【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

【完結】会いたいあなたはどこにもいない
野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。
そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。
これは足りない罪を償えという意味なのか。
私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
それでも償いのために生きている。

毒はすり替えておきました
夜桜
恋愛
令嬢モネは、婚約者の伯爵と食事をしていた。突然、婚約破棄を言い渡された。拒絶すると、伯爵は笑った。その食事には『毒』が入っていると――。
けれど、モネは分かっていた。
だから毒の料理はすり替えてあったのだ。伯爵は……。

[完結]貴方なんか、要りません
シマ
恋愛
私、ロゼッタ・チャールストン15歳には婚約者がいる。
バカで女にだらしなくて、ギャンブル好きのクズだ。公爵家当主に土下座する勢いで頼まれた婚約だったから断われなかった。
だから、条件を付けて学園を卒業するまでに、全てクリアする事を約束した筈なのに……
一つもクリア出来ない貴方なんか要りません。絶対に婚約破棄します。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる