龍人の愛する番は喋らない

安馬川 隠

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2.再開期

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 龍が人間に戻る時の音を例えるならば、冷やしたチョコレートを割る音。
パキパキと鱗が当たり、皮膚へと変わる行程で鳴る音はお世辞にも良い音ではない。

 シェルヒナは運ばれるラウリーを追い保健室へと向かい、その場にいるものは皆アウスを見知った知った者しか居ない。


「…此度は失態だな、許可書をもし取りに来ずこの有り様であったならアウスがこの事態を引き起こしたと後ろ指を指される状態であったに違いない」


 人間に半分以上戻ったとはいえ、興奮状態が長かったアウスは頬や腕に鱗が残ったままであった。
落ち着けば徐々に薄くなり一肌と同じになるが、今の現状なかなかすぐには戻せない。


 ノルマンの言葉を真摯に受け止め反省しながらも、アウスも投げられた石を受けた身。額や腕に小さな傷がみられる。
マリアはアウスにも治療をと言ったがアウスがそれを断り一旦座って話せる場所、王宮へと向かうこととなった。
マリアはラウリーとシェルヒナと共に保健室へ行き、現状向かっているエトワール家への説明を改めてする役回りになると言って学院に残った。


 シックス達含む公国の面々とノルマンは王宮へと向かい、ノルマンは全員を執務室に通しマリアが居ないからこそ話せる内容も含め、これからの話をと始める。


「……ということで裁判は人数も多いゆえ、半年以内を目安に。要件纏まり次第、書面にて公国に送る。
今回の件、聖国の紙切れによる調査の為に来たとする。渡した許可書も判を押しているから証明代わりになる。後に裁判所に出すといい」


 ノルマンのマリアが居ない時のテンションをエルメやシックスの一部は初めて見る様で、一時間ほど前と別人並みに業務的な話を淡々とし、アウスの質問等にあぁ、いや、のように二文字でしか答えない。
マリアがいた時には多少は気遣いの言葉もあったというのに。
 そのギャップに正直呆気にとられていた。



「……ノルマンはどの時期から保有していた、どこから始まった?」



 業務的な会話の終盤。アウスが龍化も落ち着きを取り戻し鱗がほぼ人間の皮膚に戻った頃、ポツリと溢した質問にシックスやエルメは理解が追い付かなかった。
ノルマンは無言で質問を聞いた後、少しだけ時間を空けてから、ノルマン視点の思い出し地点からの話を始めた。









 ノルマンが前回帰の記憶を取り戻したのは学院時代。マリアと初めて会った時であった。
王族はノルマンを含め複数人在籍し、息苦しい時代だったように思える。

 ウィリエールが過ごす現代では陰湿な爵位カーストがあったが、ノルマンの時代では露骨かつ王族同士の潰し合いも多かった。


 記憶を有したからとて、ノルマンとしては未来を変えるというよりかはマリアを守り抜きより安全に妻として迎え入れる。を目標として動くこととした。

 物語が多少でも変化することで軌道修正のイレギュラーが生まれることは前回ギルティアに話を聞いていたこともあり受け入れる態勢は取れたのだが、この物語自体が崩れ始めているのか『あってはならないイレギュラー』が生まれ始めていることはノルマンが学生の頃から始まっていた。


 現エトワール家当主、オズモンドがマリアに恋をし告白をした。
オズモンド、ノルマン、マリアは同級生でノルマンがマリアを好いてアピールしていることを唯一話せた人物であるオズモンドがマリアに結婚を前提にと前回では無かった展開を見せたのだ。

 前回ではオズモンドは一学年下のシャルロットに恋をしていてマリアに気がないからと信用し、話し合えた仲だというのに。

 流石に怒りは湧いたが振られた事でオズモンドは何事もなかったようにシャルロットに心底惚れ始める前回通りの軌道へと戻った。


「……軌道修正が追い付かない程に狂っているというのなら、イレギュラーにさえ気をつけていれば我々はあの日を越えることは可能だと俺は考えている。
……卒業パーティーが回帰へのゴール地点だとするのなら、しなければ良い話だとは思わないか」


 ノルマンの話にシックスやエルメは全く追い付けなかったが、アウスは何処か納得がいったようになるほどな。と言葉を続けた。
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