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2.再開期
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しおりを挟むノルマンの指示の下、ウィリエールとミルワームを除くその場にいたすべての生徒の移送が完了した。
ノルマンは現場で起きたことの説明をミルワームとウィリエールに求めたが、ミルワームは「魔女を粛清しただけです」と言い切りウィリエールはミルワームの一存だと言い切った。
貴族社会においてトカゲの尻尾切りなど日常茶飯事ではある。けれどそれを気持ちよく見れるほど人間性が出来上がっているわけでもない。
ノルマンとてマリア以外の存在に何一つとして興味関心はなくとも、王としてあるべき道筋だけは守りそれから外れるものには容赦しなかった。
「ウィリエールは国を支えるべきではないことは明白になった。尻尾切りをする立場に立てる者は知性と類いまれなるカリスマ性が無ければならないからね。
其々、警備兵と共に勾留所へと行き時期が来るまで勾留を。裁判の準備後、出廷をするように。ウィリエールは『もう一人の聖女』も必ず出廷させよ、共にな」
ミルワームの様子はノルマンからして見ていればわかる、ウィリエールに恋心を良いように利用され捨て駒にされた憐れな女。
推測の域を越えないがミルワームはそれを理解している、それを理解した上で私は違うと抗い続けて暴走しているだけ。
ノルマンもマリアと結ばれるまでは必死にアピールをし牽制しと動いたがもしもマリアが男を手駒に取るような悪女であったならミルワームと同じ様にノルマンもなっていたかもしれない。
学舎の扉の前で待機していた最後の警備兵と共に去っていくウィリエールとミルワームの背中を送るノルマンの心境は少し複雑であった。
誰かのために、が一方通行であったなら。それはもう……
マリアが教員の説得を終え、裏広場へと戻った時には生徒達や警備兵は皆おらずノルマンと龍化を解いたエルメとシックス達がアウスの周りで起きるのを待っているという場面。
少し離れた所ではシェルヒナが一人座ってアウスの様子を窺っていた。
「シェルヒナ嬢、日陰では寒くないのですか」
「……いいえ、王妃様の御気遣い痛み入ります」
ラウリーと共にいる時とは違い、普段の一人でいる時のシェルヒナは静かで自分から話し掛けに行くというタイプではない。
心を許した人にしか明るくならない人はいるのだから気にすることでもないのだが、シェルヒナはラウリーだけにしかその姿を見せない為マリアとしては気に掛かる存在であった。
龍の鱗がカチカチと音を鳴らす。エルメやシックス達が立ちながらも胸に右手を当て頭を下げる。その行動で理解する『彼は起きたのだと』
しかも、先程までの暴走は既に終わり理性のある状態であるとシックス達の行動は告げていた。
「アウス、起きたのなら聖女の返還を求める。彼女は怪我をしていると聞く。彼女を害するものは今この場にはもう居ない」
ノルマンはすぐにアウスへと声をかけたがアウスは返事をしなかった。
目は既に開き、居なかったはずのノルマンがいる、生徒達が既にいないなど状況の把握は出来ているはずなのに。
ノルマンは決して言葉を続けて言うことはなかった。寝起きで言葉を続けても届いているかわからないものだから、といえば楽だがノルマン自身マリア以外に分かりやすく何度もなんて優しい考えは持ち合わせて居ない。
ゆっくりけれど着実にアウスは尾の力を緩め中で守っていたラウリーを外に見える形に動いた。
待っていたシェルヒナはアウスに怯えることもなく緩んだ尾の先にいるラウリーの元へとマリアの制止も振り切って一直線に向かった。
龍の加護と聖女の力であろう、受けた傷はあれど出血は止まり化膿などの悪化は見られない。
右眉上辺りから左の頬にかけて出来た切り傷と、石を投げられ当たった痣や小さな切り傷。
シェルヒナは、石が当たっていたのなら脳に影響ないか調べて頂けますか、とマリアやノルマンに頭を下げラウリーを一番に気遣い続けた。
自身の羽織っていたカーディガンをラウリーにかけ、自身の膝を枕にした。
マリアの指示もあり、医師たちが見易いようにラウリーは保健室へと連れていかれ軽い触診の後病院へと運ばれる旨となった。
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