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2.再開期
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しおりを挟むアウスの息が正常に動いていることを確認したノルマンはアウスの事は気がかりでも進めなければならない事象が多すぎることに手を着けようと動いた。
「……まずは、聖女暗殺未遂の件でウィリエール含む全員を勾留する。次にこの黒龍が公国の主であることを知らぬとはいえ石を投げた者とそれを見ていたもの達を別途勾留することになる。傍観を決めていただけ、は今回は残念ながら通用しない。警備兵は半数に分かれこの場に居るものの全ての家の者に勾留と理由を伝えよ」
ノルマンの決定は貴族達からすれば絶望そのものであった。
学生とはいえ、両親不介入であった空間で『聖女暗殺未遂』という国を揺るがす事件に加え、追い打ちをかけるように『公国主への傷害』という国家単位の事件にも関与が認められ勾留される。どれほど一族の名前に泥を塗る行為か。
ある程度の頭が回るものはノルマンへ慈悲を賜ろうと頭を下げたが、ノルマンは一切の見向きもせずマリアを気遣うばかりであった。
学生達の両親含む家にも相当な衝撃が走ったことであろう。聖女が二人いるという噂であったりある程度の流される要因があったとしても関与の認められ勾留決定がされた者が息子娘であるという事実を叩き付けられるのだ。
ただの警備兵たちからの通達であれば反論も多少の賄賂による慈悲もあったかもしれないが、まず警備兵達が告げたのは『国王陛下よりの通達』である。
国の頂点である国王ならびに王妃が一族の汚名を見つけ、それを勾留し断罪するというのは言い訳すらも通じない本当の終わりを意味した。
勿論、エトワール家にも警備兵は向かい事情の説明をした。オズモンドの留守に応対をしたのはシャルロットであったがあまりの衝撃に持っていた花瓶を落とし割り意識を失った。
花瓶の割れる音で駆けつけてきたランゼルにもう一度警備兵は同じ話をした上で学院にいらしてください、と言えば食い気味の返事で勿論です。とランゼルは答えた。
続々とこの一件に関わるもの達とその親族に事のあらましが伝えられると、学院は今までに類を見ない程に混沌を極めた。
あまりにも多い学生の勾留決定、順を追い勾留所への移動をするため公道を含めた移動手段で何かあったことは明白であった。
依然、目を覚ます気配すらないアウスに気を取られつつもアウスの蜷局の真ん中にいるであろうラウリーの安否も不安にはなる。マリアはウィリエール達生徒の対応をノルマンに任せ、教員達に状況の説明とこれからの動きを伝える対応に回った。
「……失礼ながら王妃様、王妃様がこの学院にいらしてから騒ぎが何度も起きています。今までこんなこと無かったんです」
教員にはまるでマリアが疫病神ではないのかと遠回しに言うものもいた。ノルマンが聞けばただでは済まない言葉でもマリアは決して否定も肯定もしなかった。
前回の回帰でマリアが事の全容を知ったのは、三年後。ウィリエール達が四年生。卒業パーティで。それまでは何もかもを知らんぷりで。人が何人屍になろうとも。
デクドーとマリアの子であるウィリエールという存在に目を背け続けてきた。
「教員の言い分も分かります。ですがこの学院に根付いていたものが爆発し、こうして騒ぎになるのは例え今日でなくともいつかは起きていたことです。
そのいつかに頼るのではなく、今こうして摘める時に根を一つでも取るのが大人の出来ることではないのですか、未来は私たちでなく彼ら生徒達が担うのにどうして未来を蔑ろにし今責任転嫁に勤しむのか甚だ理解出来ないわ」
記憶を所持した回帰、これが今まで目を逸らしてきた者達へのせめてもの贖罪。
回帰しても守れなかった者達へ見せるこれからの姿勢。
王妃として振りかざせる権力を必ず曲げることなく助けられるものにするために。
「……わかりました」
渋々動く教師達を見送り、マリアは立ち止まりそうな心をグッと堪えてアウスがまだ眠る裏広場へと戻るため足を進めた。
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